≪ルークの場合≫
家に何か変な女が侵入してきたと思ったら、師匠狙うし!
人を巻き込んでおいて、俺には関係ないだと? 何なんだあの女!?
俺はお前の所為で見た事もない所に飛ばされたっていうのに、説明も無しかよ!?
・・・・・・・・まぁ、今まで外に出られなかったら?
外に出してくれた事は礼を言ってもいいけどよ。
でもまさか本当の魔物相手に木刀一本とかマジねぇわ。うん。
金もないし。
自由に行動もできねぇし。
あぁーーーー・・・・・あのリンゴ美味しそうだなぁ。
でも確か物を買うのには金が必要だって聞いてるし(家では欲しい物があったら、いつの間にか用意されてたしなぁ)、でもこっちに飛ばされてから水しか飲んでねぇ。
あの女が作ったおにぎりを食うのはなぁ、何が入ってるか分かんねぇじゃねーか。
いい加減腹減ったー!
「リンゴを三つ下さい。」
俺がじーっと見ているもんだから、ちょっと気まずそうな店主に誰かが声を掛けた。
まいど! という声と共に渡されたリンゴが上手そうでいいなぁ〜と思ってたら、眼前にリンゴを一つ、差し出された。
「どうぞ。」
リンゴからその手の持ち主へ視線をずらせば、柔らかく微笑む人間がいた。(こんな笑顔、見た事ない・・・・。だって家の皆はずっとずっと落胆したような、怖い顔が一杯だったから。)
「お腹が空いていたのでしょう?」
なかなか手に取らない俺を不思議に思ったのか、男(だよな?)は首を傾げた。
「い、いやだってお前、それはお前のもんだろう!? 俺は金持ってないし!」
「構いません。ただ私が貴方に上げたいだけですから。・・・・・あ、それとも一個じゃ足りませんか? なら・・・・」
持っているリンゴを全部渡して来て、新たにリンゴを買っている男に慌ててリンゴを突っ返した。
「こんなにいらねーよ!! 一つで十分だ!」
いや、そりゃあ腹は減ってるけど!
「俺、お前に返せるものなんか何一つねーぞ?」
「先程も言いましたが、構いませんよ。私の自己満足ですしね。それにここのリンゴはとっても美味しいんです。」
シャリ、と男にしては上品な仕草でリンゴを食べていた。
その後にとても美味しそうに笑うもんだから、俺も恐る恐るリンゴに噛みつけば・・・・・・すっげぇええ美味い!!! 何だこれ、家に出てくるリンゴと同じくらい美味い! いや、こっちの方が瑞々しくて美味しいな!!
美味しい美味しいと叫びながら食べてたら、あっという間に無くなっちまった。
あー・・・・くそ、もっと味わって食べれば良かった!
ちょっと後悔してたら、それを見ていた店主が大笑いしやがった。何だよ!?
「いやいや、いい食いっぷりだったぜ坊ちゃん! そんなに美味いって言ってくれるんなら俺も嬉しいぜ! よし、オマケにもう一つくれてやるよ!」
「え、でも俺・・・・」
「金なら気にすんな! 美味いと思ってくれたなら、今度は金持って一杯買ってくれよな!」
店の男がリンゴを投げて来たので、慌てて受け取る。
傍らの男が、笑みを深めていた。
「良かったですね。」
・・・・うん。うん!
何かここに来てから優しい人間に会ってばかりだ!
「さぁ、お礼を言いましょうね。」
「そうだな! ありがとう、おっさん!」
「ちょ、待てコラ坊主! 誰がおっさんだ、せめてお兄さんと呼べ!」
怒られた?! とも思ったけど、店主はそう言いながらも笑ってるし、隣の男もくすくす笑ってる・・・・から大丈夫か?
店の前で立ち食いするのも何だから、と俺はリンゴをくれた男と街を歩いていた。
そういや、こいつの名前聞いてねぇな。
「なぁ、名前何て言うんだ?」
「ルルーですよ。」
「ルルーか! さっきはリンゴをくれてありがとな! 俺はルーク・フォ―――」
名前を言おうと思ったら、急にルルーが俺の口に人差し指を当てて来て、まるでそれ以上は言っちゃいけないみたいだったから、思わず口を噤んだ。
「ここではしぃー、ですよ。ね?」
こくりと頷くと、白く細い指が離れていく。
何だってんだ?
「ここはマルクト国内です。マルクトとキムラスカは、そう遠くない昔に戦争までしていまして、その禍根は無くなった訳ではありません。」
そっかー。
だから俺がキムラスカ人だって知られるとヤバいのか。
・・・・・・・・ん?
何でルルーは俺がキムラスカ人だって知ってるんだ?
「赤い髪と緑の目、キムラスカ王族の血統の証です。」
あー、確かに。
俺隠してなかったしな。でも今まで誰にも指摘されなかったぞ?
「普通王族に近しい人が、一人で村にいるとは思いませんから。」
そりゃそーか。
ナタリアだって俺の家に来るだけだってのに、何人もの護衛やらメイドやらを引き連れて来るしな。
・・・・・・ん?
じゃあルルーもキムラスカの王族なのか?
だって赤い髪に緑の目だし。
そう言ったら、何でか苦笑された。
「・・・・・・いいえ。ここでの私は、キムラスカ王族の一員ではありません。」
ひどく、・・・・・何だろう?
懐かしがってる?
何かを思い出すように、悲しみながらも愛しそうに笑うルルーが、一瞬光に溶けちまうんじゃないかって思った。
おかしいな、ちゃんと目の前に居るのに。
ルルーの言葉の意味も良く分からなかったし、でもルルーが悲しそうだから追及するのは止めておいた。
「なぁ、ところでどこに向かってるんだ?」
「私の友人・・・というのは、ちょっとおこがましいかもしれませんが、導師様の元へと向かっているのです。」
「導師ってなんだ?」
「そうでうすね、この世界には三つの国がある事は知っていますか?」
「それくらい知ってるぜ! キムラスカとマルクトとダアトだろ?」
「ダアト、さらに詳しく言うならば神聖ローレライ教団。導師というのは、そこの王様の事を言います。キムラスカではインゴベルト陛下に相当しますね。」
「へぇ〜、伯父上に。・・・・え、俺これからそんな偉い奴に会うのか!?」
「大丈夫です。偉いと言ってもとても優しい子ですし、すぐに仲良くなれますよ?」
「だといいんだけどな〜・・・・って子?」
「あぁ、導師様は御年14歳でいらっしゃいます。」
「俺より年下で王様なのか!? そいつすげーな!」
「・・・・えぇ。あの子には最初から選択権など無かったのですけれど、よく頑張っていらっしゃる・・・・」
選ぶ事ができねぇって・・・・どういう意味なんだろう?
それを聞こうとした時、すぐ近くの家から声が響いた。
「ルルー!」
「導師様、いかがでした?」
「えぇ、ルルーの言う通りでした。証拠も見つかりましたよ!」
「それは良かったです。」
緑の髪の子供・・・・がそう言って嬉しそうに笑っていた。
もしかしてこいつが導師? だとしたらホントにすげーな!
それに比べて、俺は何やってるんだろ・・・・?
ぐるぐる考えていると、緑の子供がこっちを向いた。
ちょっと驚いているようだが・・・・何だ?
「ルルー、この方は・・・・?」
「先程知り合ったルーク様です。ルーク様、こちらが導師イオン様です。」
「「様をつけるな(つけないで下さい)!」」
おぉう、イオン・・・と言う奴とかぶったし!
思わず見つめ合って笑っちまった。
「僕はイオンと申します。」
「俺はルーク!」
「・・・・不思議ですね。貴方とは初めて会った気がしない。」
「俺もだ。」
ホント、おかしいな。
もしかして記憶喪失になる前に会った事があるんだろうか?
いやでもイオンだって「初めて会った気がしない」ってつまりは、本当に初めてって事だよな?
それにしてはすげー懐かしいんだよな。何でだろ?
「できれば僕は貴方と友人になりたいと思います。」
「あ? もう俺たち友達だろ? こうやって知り合ったんだから!」
違うのか?
そう首を捻っていたら、イオンは本当に嬉しそうに笑っていた。
俺の手を取り、ギュッと握りしめられる。
「よろしくな!」
「はい!」
そんな俺たちを見て、ルルーはとても優しく笑っていた。
でも同時に、すごく寂しそうだと感じたのは、何でだったんだろう?
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