≪イオンの場合≫
預言は絶対ではない。
僕は以前からそう考えていた。
でも僕がそう思っていたとしても、他の人間たちには違うのだという事も知っている。
なにせ、ここは始祖ユリアを・・・・彼女が残した預言を讃えたローレライ教団なのだから。
そして僕は導師の姿をした、ただの紛い物でしかない。
マルクトからの親書を受け、教団上層部も揺れた。
モースを筆頭とする預言遵守派は、マルクトとキムラスカの和平に異を唱えた。
(たとえ紛い物だとしても)僕について来てくれる、預言を絶対視していない改革派は和平を喜び、賛同した。
モースはユリアの預言に沿おうと必死だ。
でも、それは数多の犠牲を生み出してまで叶える繁栄なのか。
そもそも『未曽有の繁栄』を得て、本当に幸福なのだろうか。
盛者必衰、栄えたのならば衰えるのもまた必然。
僕にだってそれは分かるのに、彼らは何故それを信じていられるのだろう。
国が栄えれば、いずれ国も亡びる。
生があれば、死もある。
ならば『未曽有の繁栄』を得れば、『未曽有の破滅』もまたあり得るのではないだろうか。
だがそれを彼らに言った所で、納得はしないだろう。
彼らは預言を盲目的に信頼しているのだから。
だったら僕はこう言おう。
「マルクトとキムラスカの預言の事は分かりました。」
だが納得はしていない。
「その預言が正しいのならば、そうなるのでしょう。ですがそれはそれ、これはこれです。いずれ戦争が起こるからと言って、今和平を断る理由にはなりません。預言通りなら、和平を行ったとしても戦争にはなるのですから。だったら僕は今苦しんでいる人たちを助ける為に、和平の使者としてマルクトに随行しましょう。」
その言葉に渋々納得した(むしろ納得させた)モースは、その後もぐちぐちと文句を言ってきたが全て聞き流した。
だがまさかその中に僕の仲間がいるとは思わなかった!(後で気づいたのだけれど、彼はただの記憶喪失であって、僕の仲間ではなかったみたいだ。)
「これからよろしくお願い致します、導師様。」
それでも使節団のトップの付き人だという彼は、キムラスカ王族の特徴をその身に宿しながらマルクトに在り・・・・穏やかに笑っていた。
裏も表もない、ただ、ただ。
この出会いを祝福するように。(その笑顔に、僕は、)
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