Wonderful Heaven Extra : 15


 最近恒例になりつつあるファブレ三兄弟でティータイムを楽しんでいたある日、お茶請けにさくらんぼが用意されていた。
 いつもは無難にケーキとかなのに! いや、甘い物は好きだけど最近生クリームに飽きてきた所だったからちょうど良かった!
 おぉ・・・、見事な艶。見事な赤。
 そしてさくらんぼ自体も大きくて、さっすが公爵家のテーブルに出てくるだけの事はある。
 今なら俺だって、まるで宝石箱やぁ〜っとか言える!
 ・・・・・。
 ・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・なんか今全国の皆様に白い目で見られた気がする。
 古いネタですんませんっ!

 とりあえず出されてる事だし、一つ摘んでみる。

「・・・あ、美味しい・・・。」

 何この甘さ!
 今まで食べた事がないくらい美味いんだけど!?
 そりゃスーパーで買えるようなさくらんぼと比較すんじゃねぇよって言うのは分かるけど、だって俺それしか知らないし!

「兄上、お気に召しましたか?」

 そりゃ勿論!
 このさくらんぼを用意してくれたルシルフルには、感謝感謝だな!

「ありがとう、ルシルフル。とても美味しいよ。」
「それは良かったです。わざわざエンゲーブに頼み込んだ甲斐がありました。と言っても、アッシュ・・・・兄上を通じての事ですが。」

 ちらりと隣りに座っているアッシュに視線を流して、ルシルフルは悔しそうに顔を顰めていた。
 どうやらさくらんぼを食べよう企画は、立案がルシルフルだったらしいんだけど、ほら、俺たちってキムラスカじゃん?
 主に果物や農作物の名産地であるエンゲーブはマルクト帝国で、俺たちが直に交渉すれば値段を上乗せされそうになったり・・・と少なからずあるらしい。
 まあキムラスカは農作物を育てる土地には向いてないわな。
 大きな岩の王都に砂漠か湿原が主であるし、シェリダンがある大陸も確か荒野っぽい感じだし・・・・・一部農作物を育てやすい土地はある物の、そこは音機関研究所付近とかねぇ?
 ファブレ公爵領だとしても、農作物に影響があるんじゃないかってすごく不安だ。
 食料供給をほとんどマルクトに頼ってる状態で、キムラスカってよく戦争する気になれるよな。全くもって理解できん。
 ま、そういう訳で実際の交渉役はアッシュが引き受けてくれたらしいんだ!
 お兄様は一応ダアト所属ってことになってるからね。
 キムラスカには値段を上乗せしようかとする輩は多いらしいけど、まさかローレライ教団には高く売る事はできないからね。
 適正価格で売ってくれたらしいよ?
 で、それをアッシュが俺たちの所まで届けにきてくれたんだ!

「お兄様、ありがとうございました!」
「ふん、このくらい当たり前だ。」

 満足そうに笑うアッシュの横で、ルシルフルが今にも舌打ちしそうなんだよなぁ・・・。
 最後まで自分の手でさくらんぼを揃えたかったみたいで、不貞腐れてる。
 あー・・・・、あのちょっと膨らんだほっぺたを突っつきたい!
 何て可愛い子なんだ俺の弟は!!
 というか、ルシルフル。
 何で毎回毎回アッシュを呼ぶ時に、アッシュと兄上の間に空白があるんだ?
 アッシュ兄上ってそんなに呼びにくいのかねぇ?

 にしても、美味い。美味すぎる。
 さっきからさくらんぼを摘む手が止まらない。
 でもルシルフルとアッシュは紅茶を飲むだけで、手を出してこないんだよね?
 え、さくらんぼ嫌い?

「いいえ、兄上。さくらんぼは嫌いじゃありません。」
「同じく。」
「だったら一緒に食べよう? 一人で食べてても何か悪いし・・・・。」
「・・・・はい。じゃあ俺も頂きます!」
「俺も食うか。」

 はい、どうぞ!
 一人で食べても虚しいだけだし、さくらんぼがここにあるのは元は二人のおかげだもんな。食べて食べて!

「・・・ふむ、悪くない。」
「美味しいですね、兄上!」

 アッシュ、素直じゃないなぁ。
 ルシルフルみたいに美味しいって正直に言えばいいのに。
 でもさすが根っからの公爵子息だな、バクバク食ってるくせに無駄に食い方が優雅だぜ。
 一般人な俺にはちょっと真似できない・・・・!

 小休憩とばかりに紅茶を飲んでいた俺の目に、ふとさくらんぼの茎が映った。
 そういや、現代に居た時は茎で遊んでたっけ。
 あれ、いつも出来なくて姉貴にすっげぇ馬鹿にされた記憶しかないんだけど、今なら出来るかな?
 実を食べ終わった茎を一本手にとって、口の中にポイッと放り込む。
 目の前でルシルフルとアッシュがギョッと目を見開いてるけど、今は口の中に集中だー!

「あ、兄上?」

 もぐもぐ。

「ルルー?」

 もぐもぐもぐ。
 もぐもぐもぐ。

「兄上・・・大変申し上げにくいのですが、茎は食べられませんよ?」

 そりゃ俺だって知ってるよー。
 俺は別に食べる目的で口の中に入れた訳じゃないからなぁ。
 もぐもぐもぐ・・・・って疲れた・・・・。
 舌痛いし。
 ん〜・・・・、癪だけどしょうがない。
 諦めるか。
 んべっ、と吐き出した茎は、やっぱりどこも結べてなかった。
 そりゃさ、彼女居ない暦=年齢よ? キスなんて小さい頃家族に奪われて以来してないよ? てか家族とかノーカンだろ!
 でもでも、男としてできたら格好良いじゃないか!
 だって茎を結べる=キスが上手いってなるんだし!!
 現実は非情、一回も成功した事無いとか沈むわ〜・・・・・。はぁ。

「兄上・・・??」

 テンション下がった俺がルシルフルに改めて視線を向けると、すっげぇ可哀相な物を見るような目で見られてた。
 うおぅっ!!
 俺のチキンハートに大ダメージが!
 ・・・・・・・いや、待てよ?
 ルシルフルとかアッシュって茎結びできんのか?

「・・・・ルシルフル、お前はさくらんぼの茎を口の中で結ぶ事が出来る?」

 俺の言葉に何度か瞬きして首を傾げる弟様。

「わかりません、やった事ありませんから・・・・。」
「お兄様は?」
「わからん。愚弟と同じでやった事がないからな。」
「じゃあ、やって見せてくれませんか?」

 二人は不思議そうに視線を交わした後、それでも何も聞かずに茎を口の中に入れてくれた。
 さっき俺がやってたと同じように、二人は口の中で悪戦苦闘しているようだ。
 それでも少し時間が経つと、アッシュが茎を取り出した。

「出来たぞ。」

 ほら、と見せられた手にはしっかりと結んである茎があーるじゃあーりませんかー!!??
 ちょっ、・・・・えぇ!? できんのお兄様!!?

「意外に簡単だったな。」

 簡単じゃねーよ!?
 簡単だったら俺だってできていいはずだろー!?
 ぐれてやるぞ、こんちくしょう!!
 ・・・・ハッ!
 まだ希望は残っている!
 我らが弟様、ルシルフルは・・・・!?
 未だ口をもぐもぐさせているルシルフルを見つめていると、疲れたような溜息と共に取り出された茎は・・・・・結ばれてなかった。
 いよっしゃぁああああああ!!!!!
 同・士☆

「意外と難しいですね・・・。」

 ですよねー!
 こんなのを簡単とか言っちゃうアッシュがおかしいんだ!!

「で、一体何だったんだ?」

 何故か呆れたような視線をルシルフルに送りながら、アッシュが訊ねて来た。
 やっぱり疑問に思いますよねー?

「さくらんぼの茎を口の中で結べると、キスが上手いって言われてるらしいですよ?」

 瞬時に顔を真っ赤に染めて固まったアッシュと、何度も頷いて納得しているルシルフル。

「まぁ、結果は見ての通りですが。」

 一回も成功しないとか、お兄ちゃんへこむわー・・・。
 ま、でも仲間が一人居たからちょっと安心したけど。

「兄上、」

 はいはい、何ですか? めっさ良い笑顔の弟様。(何で!?)

「その話、誰からお聞きになられたんですか?」

 現代知識だよー、とは勿論言えない俺です。
 思わず視線を逸らしちゃったよ・・・・。
 ガイあたりなら知ってそうかなー。
 でもそうすると流石にゲイなガイでも可哀相、か?

「・・・・さぁ、誰だったかな?」

 とりあえず。
 にっこり笑って誤魔化しちゃえ!
 ・・・・・・・・・・だって説明のしようがないもんよ。


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