Wonderful Heaven Extra : 13


≪アスランの場合≫



 立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花―――とは、まさにこの事であろう。
 困惑気味に、それでも微笑するルルー様はわずかに首を傾げた。

「あの・・・・これでよろしいのでしょうか?」

 首を傾げる事によってふわりと揺れる白のマリアベール。
 その全てがまるで絵画のように美しかった。
 誰もが魅了される中、一番早く我を取り戻したのはやはり弟君であらせられるルシルフル様だった。

「・・・・兄上、とても綺麗です。」

 男にしては細すぎる剥き出しの肩を優しく抱き寄せ、寄り添う姿はとても美しい。
 ただ惜しむべきは、ルシルフル様の姿が礼服でないことか。
 これでルシルフル様がタキシードでも着ていれば完璧だったのに・・・。
 残念ながらルシルフル様は、我が主君曰く『ワイルドセイバー』なる決戦装束を身に纏っておられるのだが、・・・・・・これはこれでアリだろう。
 ルシルフル様がルルー様の肩を隠すよう、羽衣をお渡しになっている姿を見ながら、私は小さくため息を吐いた。
 ちらりと横で未だ固まっている主君を確認してから、もう一度視線を麗しい兄弟に視線を戻す。
 ・・・・・・・・アリ、だな。
 これはアリだろう。
 敵国の皇帝と望まぬ結婚を強いられた美しき花嫁、その婚礼時に助けに来た花嫁の恋人とかいうシチュエーションとかなら、アリだろう。

「ありがとう、ルシルフル。でも男の俺がこんな格好したって、気持ち悪いだけだろう?」
「まさか! 誰にも見せたくないくらい、良くお似合いです。」
「それは喜ぶべきなのか・・・・? どうせだったら、俺もルシルフルのような格好をしてみたかったのに。」

 さらりとルシルフル様の腹筋に触れる仕草に、当事者のみならず周囲の人間も息を飲んだ。
 ほぅ、と艶やかな溜息と共に這う白い手。
 これはルシルフル様もいろいろな意味で大変だろう。

「ルルー!」

 どこか緊張した空気を打ち破ったのは、キムラスカの姫君だ。
 ナタリア様も一国の姫であるのにも関わらず、この場ではあまりふさわしくないお姿(我が主君曰く『ウィルインペリアル』らしいが・・・)である。
 今にも狩りに行けそうな・・・それでいて高貴さも忘れていないそのお姿は、陛下の見立て通り美しい。
 むしろこの緊張した空間を打破して下さった姫君は実に頼もしくあらせられる。

「いけません!」
「・・・え?」
「そのような事は帰って二人だけの時におやりなさい!」

 不思議そうに首を傾げるルルー様・・・・あぁ、やはりご自身の行為が周囲にどう影響与えていたのか、無自覚だったのですね?

「え、でも気になったから・・・・」
「気になるのはわかります! 私だってアッシュのさわ・・・・いえっ、何でもありません!」

 あぁ、あんなにも顔を真っ赤にお染めになって。
 このような可愛らしい姫君に愛されるアッシュ様は幸せですね。
 隣国の次代も安泰そうで、こちらも嬉しい限りです。
 無用な争いは・・・・負の感情しか残さないのですから。

「ですが! これとそれとは別です! とりあえず、それは後でおやりなさい。」
「でも・・・」
「でもも何もありません!」

 姫君の勢いに乗せられて、思わず頷いてしまうルルー様。
 驚くルルー様の腰にさりげなく腕を回し、抱き寄せるルシルフル様も流石でいらっしゃいますね。
 これでようやく事態が治まる・・・・と思いきや、それを引っ掻き回すのが残念な事に我が主君なのです。

「ルルー! そんなに筋肉に触れたいんだったら、俺のでどうだ!? むしろ俺の筋肉を見てくれぇええええ!!」
「止めて下さい、陛下。」

 今にも上半身裸になりそうな陛下を、笑って止める。
 お願いですから、ルルー様も見たそうにしないで下さい。調子に乗りますから。
 ルルー様を陛下に近づけさせないよう、腕に力を込めたルシルフル様も笑っているようで笑っていませんから。
 陛下、気づいてて遊んでいらっしゃいますね?

「嫌ですねぇ、ルルー様。そんな鍛えてもいない中年親父の腹筋を見ても悲惨なだけですよ? どうせでしたら軍で鍛えている私のを見せてさしあげますから。」

 カーティス大佐、悪乗りしないで下さい。
 そして自分も中年親父の括りに入る事をお忘れなきよう。

「ちょ、待てよ旦那! それを言うんだったら陛下の幼馴染でもある旦那だって中年親父じゃないか!」

 よく言いました、ガルディオス伯爵。
 もっと言ってやって下さい。

「ルルー様! こんな中年組みより俺の方が若くてピチピチですから!」

 ・・・・・誰が張り合えと言いましたか。
 あぁ、ほらルシルフル様のオーラがどす黒く変化しているじゃありませんか。
 半目で呆れた様に男たちを見つめる導師守護役の「馬鹿ばっか」という言葉に同意せざるを得ません。
 しかしそんな周囲に全く気づいていらっしゃらないルルー様が首を傾げ、仰った。

「ルシルフルに触らせて貰うから大丈夫です。」

 まさに鶴の一声。
 名乗りを上げた男たちは全員黙り、ルシルフル様の黒オーラも霧散して万々歳。
 お見事です、ルルー様。

「そうですわ。ルルー、触れるのでしたらルシルフルだけになさい。」
「そうね、それが王道ですもの。」
「あたしは儲けられればどれでもいいけどぉ〜?」

 しかし女性陣の言葉に含みがあるような気がしてならないのですが・・・・。
 ティアさん、王道とはどの道での王道なのでしょうか。
 そしてアニスさん、何で儲けるおつもりなのでしょうか。
 ここはやはり・・・・突っ込むべき話ではありませんね。

 何にせよ、決戦前というのにこの穏やかな空気とは・・・・やはり大物は違うのでしょうか。
 一抹の不安は拭えませんが、きっと大丈夫。
 このような事で終わる方々ではありませんしね。
 むしろさっさと終わらせて頂きたいものです。

 ・・・・・何故かと?

 早くジョゼットと婚儀を挙げたいからに決まっているじゃありませんか。


back←   →next