≪クリムゾンの場合≫
「ホットケーキが食べたいです。」
恒例の茶会の最中に穏やかな声で語られる小さな我が儘に、その場に居たシュザンヌとルシルフルは一つ瞬きをした後、近くに控えていたメイドに揃って視線を向けた。
二人が何を言おうとしているのか、誰だってわかる。
「兄上の為にホットケーキを焼いてくれ。」
「ルルーの為にホットケーキを焼いて下さいな。」
願いは即座に叶えられた。
当たり前だ、普段我が儘を言わぬルルーの為に、料理人も張り切って焼いたことだろう。
目の前で美味しそうにホットケーキを頬張るルルーに、頬が緩んだ。
それは私だけではなく、シュザンヌやルシルフル、メイドや兵士達だってそうだ。
「ルルー、美味いか?」
「はい、父上。」
嬉しそうに笑う息子に満足感を覚えながらも、私は苦笑を紅茶に口付ける事によって隠した。
ホットケーキは本来、庶民が食べる手軽な食べ物だ。
以前孤児院を視察し、そこで食して以来息子の好物となっていたのだろう。
だがこの家では庶民のおやつなど出る確率は限りなく低い。
だからルルーは自ら、ホットケーキを食べたいとリクエストをしたのだ。
即座に叶えられる小さな我が儘。
ルルーは聡い子だ。
ルシルフルから先日の夜の事とアッシュが帰宅した時の事を聞いたが、我々が我が儘を言わぬ事を気にしているのだと知って、今日こうして口に出してみたのだろう。
ルシルフルに僅かに視線を向ければ、息子も視線を合わせ小さく頷く。
ルルーの願いは『平和』と『身近な者の幸福』だという。
それは人として尊い願いだ。
だが私もルシルフルも気づいている、その願いに隠された本当の願いを。
ルルーはきっとこう言いたかったに違いない。
『生きたい』と。
ルルーは自分がレプリカだと気づいている。
レプリカの寿命がそう長くないことも、きっと。
それをどうにかできるとは思ってないから、本当の願いを心の奥底に封じ込めてしまったのだ。
代わりに出たのは、公爵子息として、人として願うべき望み。
それもまた決して嘘ではないだろうが・・・・それでも。
確かにその願いを叶えることは難しいだろう。
だが可能性はゼロではない。
ルルーを生かす、それができなくて何が父親か!
己の生を諦めきってしまっている息子に、生命の輝きを。
・・・・私の名に誓い、いつか必ず叶えよう。
≪おまけ≫
わふわふわふっ。
なにこのホットケーキ超美味い!
いやー、駄目元で言ってみるもんだな。
ケーキ類も美味しいんだけど、上品過ぎてちょっと飽きてたんだよね。
この素朴さがたまんないっ、今度はドーナツ食べたいって言ってみるかなぁ!
「兄上、口元に欠片が・・・」
ルシルフルがスッと手を伸ばしてきたかと思ったら、口元を拭われた。
その手には確かにホットケーキの欠片がついている。
あー、夢中になって食べてから・・・・ルシルフルありがとー!
そのままぺろりと欠片を食べてしまう弟に、俺はにっこり笑って一口サイズに切り取ったホットケーキを差し出した。
「ほら、美味しいよルシルフル」
「・・・・はい、兄上」
期待通りちゃんと食べてくれるルシルフル。
わははははっ、何だかひよこを餌付けしてる気分! かーわーいーい!
back←
→next