≪クリムゾンの場合≫
早いものだ・・・。
ラムダスに報告させた書類を見ながら、私は他の者にわからぬ程度に笑んだ。
ここキムラスカでは、現在流行している物がある。
それはルルーが作り出した童話だ。
ルルーが言うには幼い子供たちの為の物語だというが、発売して間もなくそのストーリー性やクオリティから大人にも人気を博している。
「閣下」
「む、」
ラムダスに声を掛けられ、私は慌てて表情を引き締めた。
それでも長く私に仕えてくれている執事が私を見る視線は実に微笑ましげで、咳払いしたものの少々居心地が悪いのは仕方ない。
ラムダスに報告させたのは、キムラスカ国内におけるルルーの作品に対する評価と受注件数だ。
周囲の評価は高く、さすがは我が息子と言った所か。
受注件数もうなぎ上りで良い傾向だ。
しかし反面供給が追いつかない状態でもある。
「生産を拡大させましょうか?」
「そうだな、それが良かろう・・・。完売が続出して予約待ちも多くあるようだ。」
「かしこまりました。直ちに手配いたします。」
きっちり一礼して退出するラムダスを見送り、私は窓の外へと視線を向けた。
窓の向こう、中庭では愛する妻と息子が茶会をしているのが見えて、頬が緩んだ。
「・・・・そうだ。褒美をやらなければ」
今やキムラスカが誇る著者である息子を、世間は『幻想御手(ストーリーテラー)』と呼んだ。
その名が世界に轟くのも時間の問題だろう、・・・・それがとても誇らしい。
だが膨大な売り上げに関して、ルルーは扱いに困っているようだった。
自身の作品を楽しんでくれればそれで満足してしまい、金銭関係は全て私に任せるとまで言われてしまったのだ。
一応ルルーのポケットマネーとして残してあるのだが・・・・まあ良い。
いつか必要になった時の為に残しておけば良かろう。
「金に興味が無いようなら、小遣いをやっても仕方ないだろうな。ふぅむ・・・・」
そういえば、ルルーの口から我が儘を聞いた事がない。
息子は自身の体調の為だと思っているだろうが、ほぼ軟禁されていると言っても過言ではないこの状況でも、外に出たいという言葉は聞かない。
それ以外にも何かが欲しいという言葉も聞かない。
・・・・・・しまった。
これはもしや由々しき事態ではないだろうか。
その時部屋にノック音が響いた。
このリズムからして、もう一人の息子であるルシルフルであろう。
丁度良いタイミングだ。
あれもルルーの作品の評価が気になっているようだったからな、それを聞きに来たのだろう。
「入りなさい、ルシルフル。」
「・・・失礼します。」
ついでに褒美についてルシルフルの意見も聞いてみるか。
兄と仲が良い弟ならば、何か欲しい物を知っているかもしれない。
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