≪ルシルフルの場合≫
許さない。
意識を失った兄上を強く抱きしめ、その頬に流れる涙を拭った。
許さない。
異常事態を悟ったのだろう、先にユリアシティへと向かっていたジェイドたちが戻って来て、俺を見た瞬間息を飲んだのが分かった。
許さない。
「ルークが、・・・・3人!?」
「チッ、劣化レプリカが他にもいやがったのか!」
許さない。
俺が『ルーク』であった時なら、彼らからの言葉に傷付きながらも『変わる』事を宣言した。
許さない。
でも、兄上が訳も分からないまま同じように罵られたのだと思うと、腹の奥で黒い炎が更に燃え上がるのを感じた。
許さない。
「・・・・・これが『俺』であったなら、話は違っただろう。だが、」
ありったけの憤怒と憎悪を宿して、かつての仲間を睨みつける。
「俺の兄上を傷つけたのだけは、許せない!!」
事の発端は、兄上が起こした超振動の暴発だ。(それはローレライが慌てて超振動の発動を止めさせた結果なのだが。)
それによって兄上と俺は全く別の場所に跳ばされてしまったのだ。
・・・・・・いや、厳密には別の場所に跳んだのではなく、並行世界へと移動してしまったのだ、とローレライは言っていた。(チャネリングも世界を移動した所為かノイズが多く、聞き取れない事が多い。)
気づけば何故か俺は、ユリアシティの一角に居たのだから。
『しか、・・・こ・・世界・・・ークは、死・・・・・』
「・・・・この世界の『ルーク』は既に死んでいる、のか?」
『ルル・・・・同じ・・・・近く・・・・』
「兄上は同じ世界にいるんだな? だが俺の近くに兄上はいない。離れ離れになったみたいだ」
『このっ、・・・・・俺・・・・行・・・・愚弟・・・・・っ!!』
「アッシュ喚くなよ、余計聞こえない!」
ああもうっ、面倒くさいな!
「とにかくローレライ、俺たちはそっちに帰れるのか?」
『我・・・・・繋・・・と・・・・・』
「できるんだな?」
『で・・・る』
ノイズ交じりだが、確かにローレライは出来ると言った。
ならば、後は兄上を最優先で保護しなければ!
『・・・・・ルー・・・・危け・・・・!』
ローレライの焦った声に、俺もまた胸騒ぎを感じていた。
兄上に何かあったのだ・・・!
直感的にそう確信して、俺はユリアシティを飛び出した。
広場の向こうには接岸されたタルタロスがある。
突然ユリアシティから出てきた俺に驚くジェイドたちを通り過ぎて見えたのは、倒れている兄上に剣を向けているこの世界のアッシュの姿だった。
それを見た瞬間俺はカッとなって、己の剣でアッシュの剣を弾く。
「兄上!!!」
突然の乱入者である俺に驚き、体勢を立て直しているアッシュなんか知った事か!
俺は急いで倒れ伏している兄上を抱き込めば、兄上の存在は想像以上に不安定になっていた。
・・・・・・これはマズイ。
早く兄上を構成している第七音素を調律しなければ乖離してしまう!
しかもかなり精神的にも傷付き弱っているようで、兄上の綺麗な目から涙が零れるのを見て、俺の中で黒い炎が燃え始めたのを感じた。
「ルシ、・・・・」
「喋らないで! すぐに助けますからっ」
苦しそうにしながらも、俺を見つけて心底安堵したような笑みを浮かべる兄上を強く強く抱きしめた。
兄上の手がのろのろと俺に差し出されるのを見て、俺はすかさずその手を握り締める。
それを最後に、兄上の意識は途絶えたのだった。
(大丈夫、大丈夫だ。まだ生きている・・・・!)
細くか弱くはあるが、確かに動く鼓動を感じながら、俺はギュッと目を瞑った。
ユリアシティでアッシュに襲撃される事件なんて、一つしか思い出せない。
しかもローレライの話では、この世界のルークは既に死んでいるらしい。
だが仮に兄上がアクゼリュスで超振動を使っていたのなら、兄上は今この場に存在してなかっただろう。
譜歌同様、超振動の発動には多大な負荷がかかるのは勿論の事、今の兄上にはそれに耐え得る事ができない。
更に言えば兄上の身体を構成する第七音素は不安定で、ローレライや俺の補助無しに超振動を使ってしまえば身体構成音素さえも巻き込む術になる。
正真正銘の自爆技だ。
であるならば、兄上はアクゼリュス崩壊時に超振動を使用していない。
アクゼリュスを崩壊させたのは、たぶんこの世界のルークだ。
超振動を発動させて、この世界のルークが乖離したのだとしたら・・・・。
それ以降に兄上がこちらに顕現したのであれば、兄上は訳も分からないままジェイドたちに責められ罵られ、放置されたのだ。
そして極めつけはアッシュの襲撃。
それらの出来事は、儚い兄上を死に至らしめるのに充分な要素だ。
許さない。
許さない。
絶対に許すものか!
『・・・・・っ!』
『我・・・・・許さ・・・いっ』
俺の憤怒と憎悪が伝わったのか、アッシュとローレライもまた荒ぶっているのが分かる。
殊更優しく兄上を抱き上げ、俺を警戒する元仲間たちを睨みつけた。
バチバチと俺の感情に呼応するように、周囲で第七音素が攻撃的な火花を散らしている。
「俺の大事な兄上が世話になったみたいだ。礼をしなければ・・・・・」
うっすらと笑みを浮かべれば一際激しく火花が散り、周囲の床が崩壊を始め・・・・遂には光となって消失する。
「いけません! 彼は超振動を発動させようとしてます!」
ジェイドの焦った言葉に慌てて他のメンバーが臨戦態勢に入るが、もう遅い。
超振動は既に発動されているし、俺は一切の制御を行っていない。
俺を通して第七音素に働きかけているのは、俺の世界のローレライとアッシュだ。
兄上を傷つけた報いを受けろ。
・・・・・・兄上を傷つける世界なんて、存在する価値などない。
「滅びろ。」
そして・・・・・白い光が世界を覆った。
「全く、ああああっムカつく!!」
『クソッ、やはり物足りん! 一瞬で滅ぼすのではなく、じわじわと甚振ってやれば良かったか!』
『愚か者が。あの時はルルーの回復が最優先であったのだ。そうしなければ本当にルルーは危うかったのだ。あのような輩に付き合っている時間などない。』
ローレライの力で再び元の世界に戻って来られた俺は、すぐに現状把握に努めた。
どうやら兄上が超振動を暴発させた時から、小一時間ほどしか経ってなかったのは不幸中の幸いだろう。
これがもっと時間が掛かっていれば、父上と母上が騒ぎ出すに決まっている。
・・・・まぁ、兄上が一気に容態を悪化させたので結局何があったのか洗い浚い吐かされた為に、二人が単身この世界の仲間たちを抹殺しに行こうとするのを止める羽目になったんだけど。(この世界の仲間たちはもう少しマシだろう、・・・・・たぶん。)
「同じなら、その時殺ればいい。」
未だ意識を取り戻さない兄上の髪や頬を撫でながら、俺は笑みを深め、アッシュもローレライも同意するように笑うのがわかった。
そして俺はおもむろに兄上の長く美しい髪を一房掴み、そこに唇を落とす。
自分自身に誓うように・・・・・。
「兄上は、俺が守る。」
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