ルークがキムラスカ上層部にファブレ公爵家の息女として認められてから約1年、少女はキムラスカとマルクトを行ったり来たりしながら過ごしていた。
「おはようございます、父上、母上、兄上」
「おはようルーク」
「おはようございます、ルーク」
「おはよう」
現在はファブレ公爵家に居座っており、勿論滞在するその間保護者であるアスランの滞在も正式に認められ、アスランもまたルークの後ろで礼をした。
「さぁ、朝餉にしましょう。フリングス准将もどうぞお掛けください」
ルークがキムラスカに認められると同時に、アスランも異例の二階級昇進となった。
勿論アスランは辞退しようとしたのだが、キムラスカ公爵家の姫を息女として育て上げ、そして次期マルクト帝国の国母となる女性の保護者として、せめて将軍位にいろというのが双方の議会で決まったことだった。
であるから、アスランは現在准将の地位を頂いている。(実際、アスランには数々の業績もあり、度々昇進の話が来ていたのだがその謙虚な性格から辞退し続けていた為、周囲に反感はなく、逆にやっとかと思ったという。)
しかし将軍位であったとしても、言ってしまえばキムラスカで2番目に偉い一族と同席する事は彼らの許しなしにできない。
だからわざわざシュザンヌやクリムゾンが、アスランに同席を勧めるのだ。
「ありがとうございます。」
上座にクリムゾン、彼から見て右隣がシュザンヌで、左隣がアッシュが座っている。
そのアッシュの隣をルークが座り、シュザンヌの隣にアスランが座ったところで、タイミングを見計らったように次々と料理が出てきた。
「それでルーク。今日は何をする予定なのだ?」
「はい、今日はパパに剣の稽古をしてもらう予定です。父上、中庭をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わん。・・・・・・だが、女であるお前が、剣の稽古をしなくとも・・・・」
「父上!」
いいのではないか、と続くクリムゾンの言葉を、ルークはあっさりぶった切った。
実はこの会話、稽古がある日に毎回繰り返しているものなのだ。
クリムゾンはようやく戻ってきた息女が可愛くて仕方がないらしく、ドレスや装飾品など色々プレゼントしてくれるのだが、剣や譜術の稽古となるとあまり良い顔はしないのだ。
「もう何度も申しましたでしょう? 私は好きでパパに稽古をつけてもらってるんです。それに、剣技も術を習うのも必要なことです。確かに稽古は厳しいかもしれませんが、それは私を思ってこその事。こればかりは、たとえ父上の言であっても止めません」
そのままツンとクリムゾンから視線をはずすルークに、彼はあからさまにがっくりと肩を落とした。
それにシュザンヌが涼やかな笑い声を上げる。
「また、貴方の負けですわね?」
「シュザンヌ・・・だが、ルークは女性なのだぞ?」
「あら、女性は剣を持っていけませんと仰るの? 私だって体は弱いですが、弓や譜術だって扱えますのに。」
「うっ・・・・・」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。だってフリングス准将がお相手ですもの。ねぇ、フリングス准将?」
隣のシュザンヌから話をふられ、アスランは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「勿論です。小さな怪我はともかく、大怪我をしないよう細心の注意は払っております。」
彼の物腰柔らかな様相とは裏腹に、実力はかなりのものだった。
最初ルークがアスランと剣の稽古をしていたと聞いたクリムゾンは、息子であるアッシュ同様ダアト神託の盾騎士団のヴァン・グランツ謡将に頼もうとしたのだが、ルーク本人が頑としてそれを拒んだ。
自分の剣の師はアスラン・フリングスその人だけであると宣言して。
その言葉に、クリムゾンはアスランの実力を測る為に白光騎士団の精鋭と戦わせたのだ。
結果は、ただの騎士団員には勝てるが、騎士団長には負けたという。
しかしそれを見ていたクリムゾンと実際に戦った騎士団長は、彼がわざと騎士団長に負けたのだと見破っていた。
彼は白光騎士団の名誉の為に、花を持たせたのだ。
それは騎士団として屈辱的なことではある。
だが彼を公爵邸に滞在させるために、もしもの時は彼を対処できる人間がいるのだと周囲に認知させる事が必要だった。
でなければ、ファブレ公爵の息女を保護していたとはいえ、隣国の人間をあっさりと滞在させることは出来なかっただろう。
それをクリムゾンと騎士団長以外気づかせる事なく成しえたのは、彼が剣技だけでなく知略にも長けているという、何よりの証拠だった。
以来、ルークの稽古の後にはアスランと手合わせを願う白光騎士団員の姿を良く見かけるようになったのだった。
そしてその穏やかな姿勢が、周囲との関係を円滑に進めているのも一因と言えるが。
アスランの存在のおかげで、ファブレ公爵邸に住む人間はマルクトに好感を持てるまでに至ったのだ。
「ルーク、稽古が終わったら俺と勝負しろ!」
「・・・駄目です。稽古が終わったら、今度はキムラスカの歴史を勉強しなくちゃならないんですから」
「とか言いつつ、今ちょっと揺らいだだろう」
「うっ! でも駄目な物は駄目なんです!!」
実際ルークはじっとして勉強するよりも、体を動かしている方が楽しいと感じる人間だ。
アッシュの提案は実に心惹かれたが、それでもぐっと堪える。
「・・・・お前、何だか最近稽古してるか勉強してるかのどっちかじゃないか?」
「そりゃ、息抜きも必要だとは思いますけど。でも皇太子殿下の隣に立てる相応しい人間になるためには、まだまだ足りません!!」
ルークの口から出てきた『皇太子殿下』という言葉に、クリムゾンとアッシュは揃って暗雲を背負って項垂れた。
シュザンヌとアスランは笑みを絶やさない。
少女が言う『皇太子殿下』というのは勿論ピオニーの事ではあるが、先帝の突然の崩御もあり、今年彼は正式に皇帝となる。
その戴冠式がもう目前に迫っているのだ。
同時に、その式で正式にルークがキムラスカの姫であり、ピオニーの婚約者として世界に発表される日でもあった。
「・・・・ルーク! 辛いことがあったらいつでも帰ってきていいからな!?」
「大丈夫ですよ父上。ピオ・・・皇太子殿下はとっても優しい方ですから! ね、パパ?」
「まぁ・・・・何かありましたら、とりあえず私共の方で微塵切りにしますからご心配なく。」
「おぉ! 頼みましたぞフリングス殿!!」
あっさりといつも通りの穏やかな表情で物騒な言葉を吐いたアスランに、流石に周囲に立っていた白光騎士団員が動揺するが、もう一人の親馬鹿なクリムゾンは彼に同意した。
それにはさすがのルークも、怒ったように頬を膨らませる。
「もう! ピオニーは本当に優しくて頼りになる人なのに。」
「ふふっ、クリムゾンもフリングス准将も貴女が可愛くて仕方ないのですよ。ルーク、午後のお勉強はまた今度にして、私に付き合ってくれるかしら?」
「と、申しますと?」
「皇太子殿下の戴冠式に出席する時のルークの衣装を決めなければなりません。こちらで何着か決めた候補と、わざわざフリングス准将に持って来て頂いたマルクトのドレスも候補に上げて、どれにしようか決めましょう。」
「はい、わかりました。それでしたら午後の勉強はまた後でにします。」
「ありがとう。ルークの可愛さに、皇太子殿下をあっと驚かせてあげましょうね!」
「はい!!」
back←
→next