アスラン21歳、幼馴染24歳、クリムゾン40歳、シュザンヌ33歳  『決闘。 3 』


「・・・・・では、調印を。」

 ルークとサフィールが闘技場から急いで宿屋に帰っている頃、ピオニーはキムラスカ王を筆頭とする隣国の首脳と会談している最中だった。
 それも今さっき、キムラスカとの貿易に関してや連絡船のやり取りなど表向きの仕事は終わった。
 ピオニーは書類にサインをして、それを外交官に渡す。
 インゴベルトも同様に、サインした書類を自国の外交官に渡し、二国の外交官は書類を交換した。
 そうしてもう一度書類内容とサインを確認してから、自国の主に確認を取る。
 この書類が、この会談の誓約書代わりとなるのだ。

「確かに。」
「うむ。」

 ピオニーとインゴベルトが頷くと、外交官たちは礼をして退出していく。
 彼らの仕事はここで終わり。
 ピオニーにとっては、ここからが本当の戦いだ。
 一時休憩を入れるという名目で、真に信頼できる部下たちのみを残し、それ以外の人間たちは退出させた。

「さて、人払いは済ませた。・・・・・本題に入ろう、皇太子殿下」
「望む所です、キムラスカ王。こちらの使者が要請した検査結果を提出して頂きたい。」
「良かろう。」

 インゴベルトが隣に座っているクリムゾンに視線を向けると、彼は心得たようにファイルを取り出す。

「ベルケンドで行った検査結果です。私と妻のシュザンヌの2人分と、念の為用意した息子であるアッシュの検査結果もあります。」
「貴殿らの協力、感謝する。それでは、こちらも提出させよう。」

 ピオニーが背後に控えたジェイドに目配せをすると、彼は一礼してから部屋に資料を持ったサフィールを招き入れた。
 どうやら彼は既に室外で自分の出番を待っていたようだった。

「お初にお目にかかります、キムラスカ王並びにキムラスカの皆様。私が今回ファブレ公爵御息女候補である、ルーク・コーラル・フリングスの検査を担当しました、サフィール・ワイヨン・ネイスと申します。また私は現在、ダアトにも客員博士として所属しております。ローレライとユリアの名においてこの検査結果が嘘偽りのない物と誓うと共に、今回のルーク・コーラル・フリングスに関する審議に関して、立会人として臨席する事をお許し下さい。」
「おぉ、其方が譜業博士と名高いネイス博士か!」
「勿体無きお言葉です。」

 サフィールは深々と礼をした後、持っていた書類をキムラスカ側へと差し出す。

「これがルーク・コーラル・フリングスの音素検査の結果になります。」
「うむ。・・・・それで、ネイス博士。正直我々には検査結果を出されてもよくわからない。単刀直入に聞こう、ファブレ公爵夫妻とその少女の間に血縁関係は存在するのか?」

「ファブレ公爵夫妻とルーク・コーラル・フリングスの間に血縁関係は存在するのか否かと問われれば、肯と。しかも公爵子息アッシュ様との検査結果を比較した所、双子の可能性が高いかと思われます。」

 サフィールの迷いのない決然とした言葉に、キムラスカ側がざわりと揺れた。
 特にファブレ公爵と、彼の隣に同席していたシュザンヌは歓喜に身を震わせた。
 彼らは嬉しいだろう。
 だが、国も人も決して一概ではないのだ。
 誰もが『双子』の存在を祝福する訳ではない。

「・・・・聞けば、今回ファブレ公爵令嬢と証明されたルーク様は、マルクトの佐官の元に保護されお育ちになられたと。相違ありませんか、ピオニー皇太子殿下」

 キムラスカ王の隣、ファブレ公爵側とは反対に座っていたアルバイン内務大臣が口を開いた。
 あからさまに表情を変えることはないが、その中にピオニーを若造と侮る光をマルクト側は確かに察した。

「相違ない。我がマルクト帝国軍に所属するアスラン・フリングス中佐の養女として、令嬢は育った。」

 ピオニーがジェイド同様己の背後で控えるアスランに視線を向けると、彼は一歩前に進んで敬礼して見せる。
 だがアルバインはそれに一瞥もくれないで、続けた。

「では、すぐにでも返還して頂きたい。」

 言うと思った。
 それが偽りないピオニーの考えだった。
 だがこうもストレートに言うとは思わなかったが。

「何故?」
「ピオニー殿下ともあろう方が、何故と申されますか? 殿下もわかっていらっしゃるはずです。ルーク様は、キムラスカの王族。なればこそ、その御身はキムラスカにあるべきでしょう」
「だがルーク本人は、実の親の顔さえも知らない。キムラスカで生まれた事も知らなかった。生まれてすぐにベルケンドへ移動し、さらにカイツール、そしてマルクトへと至ったのだが・・・・。ルークにとって見れば、フリングス中佐が親でキムラスカは異邦の地。そんな地に、少女一人向かわせられない。」

 ピオニーの言葉に、ファブレ公爵は渋面を作った。
 テーブルの下に隠されている拳は、きっと震えているだろう。
 彼の気持ちを考えれば同情しなくもないが、だからと言ってピオニーは手加減しない。
 ここで己が踏ん張らなければ、望む未来は開けないのだから。

「ならば、折角の今回友好関係を深めたというのに、また緊張状態に戻したいのですか?」
「まさか。我らはキムラスカとの友好を望んでいる。」
「ならば・・・・!」

 アルバインが若干語気を強めて続きを言う前に、ピオニーは不敵な笑みを浮かべてそれを遮った。

「キムラスカ王・・・・まさか我らが知らぬと思ってはいないだろうな。キムラスカに伝わる『双子』の言い伝えについて。」

 一瞬にして、室内の緊張が高まった。
 ピオニーの言葉にもインゴベルトは沈黙を続けたが、動揺は露とも見せない。(そこはやはり年の功か。)

「勿論、その手の言い伝えはオールドラントにたくさんあるのだが、事キムラスカではそれが顕著だ。・・・・貴国では『双子』は『忌み子』とされるらしいな。そのキムラスカが、何故今更双子の片割れを引き取ろうとする?」
「・・・・・ピオニー皇太子殿下。言い伝えはあくまで言い伝え。クリムゾンやシュザンヌの気持ちを考えれば、姪にキムラスカへ戻って来て欲しいと願うのはいけないことだろうか?」
「いいや。それは人として・・・・特に深い関わりのある人間にとって、それはおかしい事ではないでしょう。だが、そう・・・・私は心配なんですよ。こう言うのもなんですが、私とフリングス中佐は結構仲が良くてね、ルーク嬢にも何度も会ったことがある。私はあの少女の事を気に入っているのですよ、キムラスカ王。それなのに『忌み子』とされるのをわかっていて、それでもすぐに差し出すとお思いか?」

 口元は笑みを浮かべながら、目は真剣にキムラスカ王を見つめる。
 だがそのインゴベルトの隣で、激昂したようにクリムゾンが立ち上がった。

「例え双子であろうと! ルークは私達の子です! 私達が守ってみせる!!」

 クリムゾンのその言葉にインゴベルトは頷き返したが、アルバインが少し眉を寄せたのをピオニーは見逃さなかった。
 彼はきっと、ルークの存在を望んではいない。

「・・・・・失礼、ファブレ公爵。実はこちらも、この件に関して気が立っていてな・・・・」

 いきり立つ彼を宥めるように、些かわざとらし過ぎるくらい物憂げに溜息を吐けば、クリムゾンは急に平静を取り戻し、恥ずかしさからか若干頬を染めながら椅子に座り直した。

「殿下、それは一体どういう事でしょうか?」
「こちらがキムラスカへと会談申請し、そしてそれが受理された日の間に、帝都グランコクマにおいてルーク嬢とその保護者たるフリングス中佐の事を、尋ね回る輩が何人かいたのですよ。まぁ、それは別に予想範囲内だったんだが・・・・・」
「何か問題でも?」
「その輩が、3種類に分かれるんですよ。1つ、ただ純粋に2人の関係や身辺を調査していた者。2つ、2人を調べるついでに、ルーク嬢がキムラスカの王族であり『双子』だと言いふらし、キムラスカへと返還すべきだと述べる輩。3つ、2人を調べるついでに、このままマルクトに住む事を勧め、キムラスカへの帰還を止めるよう述べる者。だが彼らに共通しているのは、グランコクマ付近では見た事もない顔であった事。そして旅人の格好をしているのが多かった事だろうか。」

 これにはキムラスカ側もどんな理由があれ全員が驚いた。

「ちなみに1つ目はファブレ公爵が調査を命じた人間だった。彼らはフリングス中佐にも挨拶をしていったそうだからな。裏も取れてる。問題なのは2つ目と3つ目だ。秘密裏に彼らのことを調べていた部下からの話だと、どちらも調べ終わったら国境を越え、キムラスカのバチカルに向かったという報告がなされた。・・・・・これは一体どういう事だろうか?」

 2つ目の輩は、きっとすぐにでもキムラスカにルークを返還させて、何らかの処分をして本当に存在を無かった事にしようとしていたのではないか。(きっと信心深い輩は、王族に忌まわしい双子が生まれた事を良く思ってはいないだろうから。)
 3つ目の輩は、次期王のアッシュがすでにキムラスカにいるのだし、双子としてキムラスカに戻るよりは、双子の事実を一切伏せたままでマルクトに永住させようとしていたのだろう。(余計な混乱は招きたくなかったのかもしれない。)
 ピオニーはそう考えた。


「この話を聞いてそれでも尚、貴殿らは今ここで、ルーク・コーラル・フリングスの身柄を要求するのか?」


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