ルーク7歳、アスラン21歳、幼馴染24歳  『決闘。 2 』


 マルクトでも有数の剣の使い手であるアスランと、マルクト最強且つ最凶と謳われる譜術士ジェイドに鍛えられたルークは、サフィールの心配を他所に怪我をする事も無く堂々と決勝戦へと勝ち進んだ。
 そんじょそこらの人間と、ルークとでは実力に大きく差が開いているのだ。
 少女は手っ取り早く相手を戦闘不能にさせる為に、試合開始直後気合の踏み込みで柄を相手の腹部へとめり込ませたのだ。
 それだけで相手は意識を失い、軽々と決勝戦へと進めるものだから、ルークは逆に物足りなさを感じてしまった。

 だが、決勝戦はそうもいかなかった。

 ルークと同い年くらいの赤茶色の髪の少年が、眉間にしわ寄せながら相対する。
 向き合った瞬間、ルークは「これはダメだ」と直感した。
 それは勿論決勝戦の勝敗に関してではなく、今まで通り一撃では片付けられないだろうなと、相手の力量を何となく推し量れたからである。
 負ける気はしない。
 ここで負けたら、戦い方を教えてくれたアスランやジェイドに会わせる顔もない。

「お前、そんな小さい体でよく決勝戦まで勝ち残れたな。」

 少年の緑色の目が眇められる。
 ルークを小さい少女だからと言って侮るような声音ではない。
 ただ純粋な感想だったのだろう。
 そのことに気づいたルークは、猫耳フードで唯一隠れていない口元を綻ばせた。

「ありがとう、この勝負もル・・・私が勝たせてもらうけどね!」
「笑止。女子供だからって容赦はしない。これは戦いなんだからな」
「うん、そうして。私も本気で行くから!」

 ルークとて女子供だからと言って、手加減されたのでは面白くもなんともない。
 わくわくしながらルークが腰から剣を抜くと、相手の少年も剣を抜いた。
 その時タイミングよく、決勝戦審判である女性がマイクを持って声を張り上げた。

『さぁっ、キッズ武闘大会ついに決勝戦となります! 西方、力強い剣技で対戦者を退けてきたキムラスカの期待の星・アシュ選手! 東方、小さくともそのスピードを生かし勝ち進んできた流浪の旅人・猫耳選手! それでは双方、前へ!!』

 大歓声と共に、ルークとアシュと呼ばれた少年が剣を構えた。

「・・・・おい、お前の名前、あからさまに偽名じゃねぇか」
「別にいいでしょ? 本名を書けとは書いてなかったし、本当の名前を書くとちょっと厄介だし」
「ふん! 俺が勝ったら、お前のその顔と名前、明かしてもらうぞ!」
「やれるものならね!」

『キッズ武闘大会決勝戦、・・・・・始め!!!』

 審判の合図と共に、先手必勝と先に動いたのはルークだった。
 今まで通りスピードを生かし柄でアシュの腹部を狙うが、ルークの予想通りアシュは少女の攻撃を剣で防いだ。

「今までと同じ手で俺を倒せると思ったか?」
「まさか。ちょっとした確認、かな?」
「確認だと・・・・?」
「そ。だってこれぐらいしてくれなきゃ、私が楽しめないでしょう?」

 相手の神経を逆撫でするような、ジェイドと同じ口調と声でルークは相手を挑発するが、アシュは眉間の皺を少し深くしただけであまり動じていないようだった。

「お前のその余裕、何時まで保つかな?」

 アシュの言葉に、今度は父親そっくりの笑みでルークはくすりと笑う。

「何時まで? ・・・・・・勿論、私が私である限り」
「・・・・・・・・変な女だな。ならば、こちらから行くぞ!!」

 アシュがルークの剣を弾き、宣言通り容赦なく振るわれる剣だったが、ルークには当たらない。
 そこから、熾烈な戦いが始まった。




 子供とは思えないほどの実力者が戦っていると、観客も盛り上がる。
 野次にも似た声援を間近に聞きながら、サフィールは硬い表情でルークの対戦者である少年を観察する。
 髪と瞳がやや色合いが違うが、顔の造形はルークと似通っている。
 そしてアシュと言う名。
 きっとルーク同様、少年も偽名だろう。
 少女の父親からファブレ家の話を聞いていたサフィールは、あの少年が誰であるかすぐに検討はついた。
 だがルークは気づいていない。
 そして相手も気づく訳もない。

「・・・・・・よりにもよって何であの子供がここに・・・・・・! 離れて育っても兄妹という事ですか?」

 ルークがアシュを傷つけても、アシュがルークを傷つけても、おそらく重大な問題になるのではないかと考えれば、胃がキリキリと痛み出した。(あぁっ、あの幼馴染たちの暴挙さえ泣きながらでも耐え抜いてみせたというのに、今は胃に穴が開きそうだ!)
 だからと言って、今更試合を中断すれば本人たちだけでなく観客からも大ブーイングだろう。
 サフィールには、お互いあまり怪我をしないように早く試合に決着がついて欲しいと、祈る事しか出来なかった。
 だが悲しいかな。
 そういう時に限って試合は長引くものであり、なかなか決着がつかない。

「・・・・やるな! 女の癖に、俺とその歳で対等にやりあえる人間なんてそうそう居ないぞっ」
「そう!? 貴方も私が戦ってきた3人より、遥かに強いよ!」
「当たり前だ! 俺をそこらの子供と比べるな!」

 そう言って、アシュは切り結んでいた剣を力任せに弾いた。
 ルークは荒い息を整えながら、体勢を整える為に即座に後退する。
 力と体力はアシュの方が上だと言う事は、ルークにもわかっていた。
 対してルークはスピードと剣技、そして多分譜術に関してはアシュより上だ。(伊達に鬼教官ともいえるジェイドとアスランに鍛えられている訳ではないのだ。)
 つまり物理攻撃での戦闘が長引けば長引くほど、ルークにとっては不利な状況になっていく。
 どう攻めるか思案していると、アシュの小さな呟きがルークの耳に入ってきた。
 それが第五音譜術の呪文であることに気づき、咄嗟にルークも譜術――譜歌を唱え始める。

「決着をつけよう、これで終わりだ! 全てを灰燼と化せ、エクスプロード!!」

「堅固たる護り手の調べ―――」

 アシュの譜術が発動するのと、ルークの譜歌が発動するのがほぼ同時。
 だが勝敗の別れはまさにその後だった。
 譜術が炸裂したのを見て自身の勝利を確信した少年は、相手の状況を確認もせず気を緩めた。
 対してルークは譜歌によって譜術を防ぎ、動揺することなく冷静に相手へと攻め込んだ。
 結果、ルークの剣はアシュの剣を手の届かぬ場所まで弾き飛ばし、驚きに目を見開く少年に容赦なく膝蹴りをお見舞いしてやったのだった。

「・・・・く、そっ! 俺と、したこと、が・・・・」

 ルークの攻撃で意識を失う瞬間呟かれた言葉に、ルークは審判が判定を下すまで気を許さずに答えを返した。

「パパたちが言ってたの。戦いにおいて、油断こそが命取りだと。まさにその通りだったわね」

 少年が完全に意識消失したのを確認した審判は、そこでようやく判定を下した。

『キッズ武闘大会、優勝者は流浪の旅人・猫耳選手です!!!! 皆様、盛大な拍手をお願いしますっ』

 言下、闘技場は拍手と大歓声に包まれた。
 そしてようやく気を緩めることが出来たルークは、審判から差し出されたメダルを見て固まった。

『さぁ、優勝の証です。どうぞお受け取り下さい』
「あ、ありがとうございます・・・!」

 おずおずと照れながら銀色に輝くメダルを受け取ると、今度は長剣を差し出された。

『これは優勝商品のラストフェンサーと呼ばれる武器です。貴重な鉱石から生成された剣ですので、威力も折り紙つきです。今の貴女には扱う事ができないかもしれませんが、今回の事で満足せず、将来この剣が扱えるようにこれからも精進して下さい。』

「・・・・はい!!」

 今のルークにとって、その剣は大きくて重い。
 剣を受け取る時、少しよろけたがそれでも何とか耐えて、しっかりと受け取った。

『これにてキッズ武闘大会を閉会します!!』

 こうして大歓声と共に、キッズ武闘大会は終了したのだった。
 今までハラハラしながら観客席で見守っていたサフィールは、閉会の合図と共に観客席から闘技場に飛び降りて、すぐさまルークに駆け寄った。

「ルーク!!」
「あ、サフィールお兄さん! 見て見てっ、ルーク優勝できたよ!」
「えぇ、おめでとうございます・・・・・ってことで、さっさとこの場から離れますよ!」

 ルークから優勝商品である剣を受け取って、サフィールは一刻も早くここから抜け出すべく、戸惑う少女を珍しく強引に促す。

「え、でもアシュはまだ意識取り戻してないし、できればまた戦いたいな〜って・・・・」

 そのアシュが気絶している今の内に逃げ出したいのだ。
 本来、今この場で2人は出会うべきではなかったのだから。

「すぐに会えますよ、・・・・すぐにね。」
「サフィールお兄さん?」
「とにかく、今この場は引いて下さいルーク。それに思ったより時間を消費しました。もしかしたらピオニーたちの迎えがもうすでに宿屋に来てしまっているかもしれません」
「それは大変! 早く行かなくちゃ!」
「えぇ。お願いします」

 ルークも納得させた所で、サフィールは少女を抱き上げて駆け出した。
 だがそれもすぐに止まる事になる。

「あ、待ってサフィールお兄さん」
「今度は何ですか?」
「剣を持ってくれてありがとう。後ね、これも持っててくれる?」

 そう言ってルークはサフィールの了承を待たず、キッズ武闘大会優勝者の証である銀色のメダルを彼の首にかけた。

「どうしたんです? せっかくですから、貴女がしてれば良かったのに」
「いいの。ルークには、これがあるから」

 そう言って服の下から取り出したのは、金細工で作られた精巧な響律譜であるペンダントだった。
 鳥の羽を模したような円状のペンダントなのだが、サフィールはその絵をどこかで見たような気がした。
 一体、どこで見たのだったか?
 サフィールが難しい顔でルークのペンダントを見つめていたが、少女はすぐにそれを服の下へと隠してしまう。

「? サフィールお兄さん??」

 ルークの問いかけに我に返ったサフィールは、小さく頭を振った。
 とりあえず、今はそんなことを考えている場合ではない。
 一刻も早く(あの少年が意識を取り戻す前に)、ここから離れなければならなかったのだった。

「・・・・・行きますよ!」
「うん!」

 折角大会に優勝したというのに、彼らは慌しく闘技場を後にしたのだった。


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