ルーク7歳、アスラン21歳、幼馴染24歳  『決闘。 1 』


 ピオニーとルークが望む未来の為に、乗り越えなくてはならない物が、今目の前にある。
 雄大にそびえ立つキムラスカ・ランバルディア王国首都バチカル。
 遂にこの日がやって来たのだ。
 彼らにルークをどう認めさせるか、また今後のルークの生活もこの会談にかかっている。
 港で多くのキムラスカ兵に出迎えられた(その中には、ジョゼットの姿もあった。)ピオニーは、ジェイドやアスランは勿論のこと護衛の多くを引き連れながら、バチカルに足を踏み入れた。

 そのまま王宮へと向かう団体に紛れて隠れるように身を隠したのは、猫耳付きフードを深く被った幼い少女ルークと、幼馴染に半強制的に連れてこられた男サフィールだった。

「・・・・・物々しいですね。」
「仕方ないよ。だってピオニーは皇太子殿下なんだもん。そんな偉い人が、他国にやって来るのって大変な事なんだよね?」
「えぇ、そうですね。外交官同士の会談はよくありますが、一国の長同士の会談は滅多にある事ではありません。・・・・と言っても、片方は未来のという前置きが入りますが。まぁ帝国内の実権は既にピオニーの物になってますし、実質ピオニーが一国の長と言っても構わないでしょう。そんな人間が、直接会談に来る。それだけ、マルクトがどれほど今回の会談に力を入れているか、キムラスカも良くわかっているのでしょう。そしてその真の目的についてもですね。」

 ピオニーたち全員が天空客車で移動したのを確認し、規制が解除されてから2人は天空客車に乗った。
 他にも乗客はいるため、2人の会話は自然に小さくなる。

「すごいっ。マルクトじゃ見られない移動方法だね!」
「キムラスカは譜業に特化していますから。マルクトはあくまで譜術大国。それに地形の問題もあるでしょうね」
「えと、それジェイドお兄さんに教えてもらったよ! キムラスカは落下した巨大譜石を利用して都市を築いたって」
「その通りです。下層は一般市民の居住区、中層は軍事中枢部、上層は貴族の居住区と大まかに区別されています。ピオニーたちが向かったのは、上層にあるバチカル城です。私たちは、彼らの会談がある程度進むまで出番がありませんので、下層の宿屋にて待機します。」

 その言葉に、少女はキラキラと目を輝かせてサフィールを見上げる。
 傍目から見ればとても可愛らしい物だが、彼はとても嫌な予感がして頬を引きつらせた。

「あのね、サフィールお兄さん。」
「・・・・・・・何ですか?」
「宿屋のお部屋を取ったら、街を見て回ってもいい?」
「・・・・まぁ、それくらいなら。但し、わかっていると思いますけど私と一緒にですからね?」
「うん! ルークもサフィールお兄さんと一緒がいいもん。でね、ルークやってみたいことがあるんだ!」
「やってみたいこと、ですか・・・・・・・」

 サフィールは嫌な予感をひしひしと感じていた。

「今ね、キムラスカの闘技場でキッズの武闘大会が開かれてるんだって!」

「もしかして、それに出たいとか言いませんよね?」
「出たいやりたい闘ってみた〜い!!」

 嫌な予感大的中。

「冗っ談じゃありませんよ!! 貴女に何かあったら、私の命が危ういんですよ!」

 ことルークに関して、幼馴染とルークの父親であるアスランは過保護であり、溺愛もしている。
 少女が武闘大会に出て傷でもついたら、サフィールの命はもはや無いと言っても過言ではない。
 それはあまりに恐ろしすぎる!

「大丈夫、怪我しないようにするから! もし万が一怪我しても、譜術で治すし」
「そういう問題ですか!? というか、何で貴女が武闘大会なんて知ってるんです?」
「ピオニーが言ってた。『キムラスカに闘技場ってのがあるんだ。一度は出てみたいよな〜! 俺たちがキムラスカに行く時は、キッズの武闘大会も開かれてるらしいぜ』って」

 元凶は貴方ですか、ピオニー。
 少女から幼馴染の馬鹿な発言を聞いて、サフィールは思わず眩暈を感じた。
 あの馬鹿殿下は、いつもいつも面倒事をサフィールとジェイドを巻き込んでは、そのほとんどでサフィールは貧乏くじを引かされるのだ。
 今回もどうやら例外ではなかったらしい。

「ね、サフィールお兄さんお願い! ジェイドお兄さんやパパには、ルークがちゃんと言っておくから!」

 ましてルークのおねだりを断る事も出来る訳がなく、なし崩し的にサフィールは少女のお願いを了承してしまった。(その結果どうなるか考えないように、彼は思いっきり現実逃避した。)

「・・・・・・・・・・・怪我だけは、しないで下さいね」
「うん! ありがとうっ、サフィールお兄さん!!」

 哀愁漂うサフィールに、少女が満面の笑顔を向けるから、彼は深い溜息を吐きながらフードの上からルークの頭を軽く撫でてあげたのだった。




 そうしてルークの望んだ通り、宿屋の部屋を取った後2人はバチカルの街を探索し、最後に闘技場へと向かった。
 通常荒くれ者や自身の力を試したいなど思う大人たちが集まる闘技場だが、今回キッズ武闘大会が開かれる事から、子供の姿が多く賑やかだった。

「すみません、キッズ武闘大会へエントリーしたいのですが。」
「はい。個人戦、団体戦、バチカルーンへの挑戦がございますが、どの競技に参加をご希望ですか?」

 保護者の代わりとしてサフィールが受付で手続きしようと声をかけると、受付の女性はにっこり笑ってそう言った。
 団体戦を除くと、後は個人戦とバチカルーンとなるが、サフィール的には怪我をしないであろうバチカルーンへ出場してもらいたい。(むしろそれで満足して欲しい。)
 そう思って彼が少女を見下ろすと、ルークは目を輝かせて力強く宣言した。

「勿論、個人戦で!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・だ、そうです。」
「では、こちらの書類に必要事項を記入し、保護者様のサインをお願いいたします。」

 ただ己の技術を披露する競技ではなく、あえて危険な個人戦に挑む所は好奇心大盛で怖いもの知らずな幼馴染たちの影響か、それとも軍人としても優秀な少女の父親の影響か。
 答えは出なかったが、深い溜息を吐いて諦めた表情でサフィールは女性が差し出したエントリーシートに記入して提出する。

「個人戦は今のエントリー人数から、3回戦って勝ち進みますと決勝戦となります。またアイテム使用できませんが、譜術の使用は許されています。時間は無制限で、相手を戦闘不能にするか、『まいった』と言わせるかで勝利できます。」
「武器はどんな物でもいいのですか?」
「勿論です。キッズの大会とはいえ、ここは闘技場でありこれは武闘大会です。出場者が一番扱いやすい武器・・・真剣であろうが、弓であろうが、譜業武器であろうが、一切構いません。」
「成程。ルーク、貴女武器はちゃんと持っていますね?」
「うん! パパがわざわざ買ってくれた剣、持ってるよ」

 それはアスランが、ルークの為だけに作らせた剣だった。
 ルークは同じ年代の子供と比べれば力は強い方だが、男や大人に比べれば全然弱い。
 その為なるべくスピードを重視するようにと、軽いが強度はしっかりある剣をルークにプレゼントしてくれたのだった。
 その剣は、少女の腰にちゃんと装備してある。
 それを確認すると、ちょうどいいタイミングでアナウンスが入った。

「そろそろ武闘大会が開幕します。出場される方は、控え室の方へ移動をお願いします。」

 その言葉に、子供たちがぞろぞろと控え室の方へ移動していく。

「あ、ルークも行かなくちゃ!」
「待ちなさい、ルーク」

 慌ててルークも控え室に向かおうとするが、サフィールに呼び止められて立ち止まった。

「なーに?」
「いいですか、ルーク。貴女はとても強い子です。それを私は良く知っています。ですが油断をしてはいけません。戦いにおいて、慢心など油断こそが命取りになります。わかりますね?」
「うん。」
「・・・・とにかく、怪我だけは本当に気を付けてくださいね?」
「大丈夫だよ、心配しないでサフィールお兄さん。ルーク、きっと勝ってみせるから!」
「えぇ、頑張ってください。ジェイドやフリングス中佐の言いつけ通り戦えば、必ず勝てますから」
「うん! それじゃ、言ってくるね」
「いってらっしゃい、ルーク」

 溢れ出そうになる不安を押し隠し、サフィールは出来るだけ冷静にルークを見送った。
 少女の後姿が見えなくなると同時に、彼はすぐさま観覧席へと移動していく。
 少しでもルークの姿が良く見える場所を確保する為に。


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