それから間もなく、正礼装に着替えてきた男たち4人が、ネフリーとルークの元へ戻ってきた。
「・・・ルーク!! よく似合ってるぞv」
「おや! 馬子にも衣装、とはよく言ったものですね。」
「カーティス少佐! ・・・・とても可愛いですよ、ルーク」
「よ、よよよよく似合ってるんじゃないですか!?」
「・・・・・・・・・サフィール、いくらルークが可愛いからってお前どもり過ぎ。」
「パパたちも何だかいつもと違う感じでかっこいいよ!」
アスランとピオニーは髪を撫で付けており、ジェイドとサフィールは長い髪をしっかりと束ねていた。
それだけでも随分と印象が違ってくる。
「うんうん、俺の見立ては間違ってなかったv」
「あら、ルークのドレスは殿下が選んだのですか?」
「おうよ! 可愛いだろ綺麗だろ似合ってるだろう!!!」
「はいはい、そこの馬鹿落ち着きなさい。ルーク、サフィールが例の物を完成させました。」
「ホント!? サフィールお兄さん!」
「あったりまえです!!」
えっへん、と胸を張るサフィールに、ルークは嬉しさのあまり彼に抱きついた。
すぐさま他の3人からチェックを受けたが。
「「「ルーク! 手は使わない!!」」」
「ごめんなさーい!」
いきなり手を使うなといわれても、すぐには慣れないのだから仕様がない。
ルークはいけない、いけないとぺろっと舌を出してから、サフィールに手を伸ばした。
「サフィールお兄さん、ルークが渡す!」
「・・・って貴方今手を使うなって言われたでしょう。」
「極力使うな、ってだけだもん。平気だよ! ルークが渡したいの、お願いサフィールお兄さん!!」
ルークの必死のお願いにサフィールは困ってしまい、幼馴染とアスランに救いを求めたが、彼らは一様に渋い顔で「仕方がない、」と溜息を吐いた。
彼らもルークのお願いには弱いらしい。
サフィールは仕方なく、ルークの包帯が巻かれた手の上に恐る恐る譜業加工した『雪の華』を乗せた。
少女は嬉しそうに微笑んで、不思議そうなネフリーへと『雪の華』を差し出した。
「はい!」
「・・・・私に、くれるの?」
「ルークが、ネフリーお姉さんの為に見つけて、サフィールお兄さんに溶けないように加工してもらったの!」
少女の手から『雪の華』を受け取ったネフリーは、神秘的な輝きを放つ花に、思わずジェイドたちを振り仰いだ。
「これ、もしかして・・・・」
「えぇ。本物の『雪の華』、ですよ。」
「ルークが、ネフリーの為に見つけたんだぜ」
「丁度ネフリーはベールしかつけないと聞いたんで、一応ヘッドドレスとして使えるように作っておきましたけど、部品を変えれば普通にコサージュとしても使えますよ。」
ネフリーの手から再び『雪の華』を手に取ったサフィールは、そのままネフリーの髪に『雪の華』を取り付けた。
きらきらと輝く『雪の華』は、より一層ネフリーを美しい姿に彩った。
「・・・・綺麗。まさか本物が見られるなんて・・・・ありがとう、ルーク。とても嬉しいわ」
「『雪の華』って幸せの象徴なんだって。だから、ネフリーお姉さんきっと幸せになれるよ!!」
「本当にありがとう・・・・一生大切にするわ。」
ネフリーがそう言うと、ルークはえへへと恥らうように笑った。
「さて、ルーク貴方の髪を結ってしまいましょうね」
ルークを後ろからひょいと抱き上げたジェイドは、そのまま鏡の前にルークを座らせた。
そこで待ってましたとばかりに、アスランは櫛でルークの髪をすき始めた。
髪を半分に分けて、右側をアスランが、左側をジェイドが結い上げ、ツインテールにする。
ある程度形を整えたら、サフィールが髪留めしている部分に、花飾りやリボンなどの装飾を付けていく。
見事な分担作業である。
その様子を見ながら、ネフリーは微笑みながらピオニーへと話しかけた。
「殿下は手伝われないんですか?」
「俺が手を出すと余計ぐちゃぐちゃになるんだよ。俺はあいつらほど器用じゃないからな。適材適所、俺には大事な役目が最後に残ってるんだなぁ〜これが!」
「ふふふっ、殿下は、幸せそうですわ」
「・・・・あぁ、当たり前だろ。俺の側にジェイドやサフィール、アスランがいて・・・・・何よりルークがいる。・・・・・・ネフリー、」
「・・・・はい。」
「俺たちの道は交わらなかったが、・・・・・俺は今、幸せだ。だから、お前も幸せになれネフリー」
その言葉に、彼女は不覚にも泣きそうになった。
ピオニーの言う通り、ネフリーと彼の道は交わらなかったが、それでもお互いが別の幸せを手にしている。
今、胸の内に湧き上がる思いを、ネフリーはどう告げていいかわからなかった。
それは幼き日へ郷愁でもあり、お互いが別の人を選んだ切なさでもあり、そして親しい友人へ向ける愛しさでもあった。
ネフリーは震える声で返事をしながら、しっかりと頷いて見せたのだった。
「・・・・はい、必ず・・・・」
「殿下、出番ですよ!」
「おっ! 俺の出番がやーっと回ってきたか!」
アスランの呼び声に、ピオニーは喜々としてルークに近づいた。
その手にグロスを持っているということは、彼がルークに塗るのだろう。
ピオニーと代わるように、ネフリーの側にジェイドがさりげなく立った。
「・・・・泣かないで下さいよ。折角長い時間をかけて化粧したんでしょう? 泣いたら今からやり直しの挙句、物凄い顔になりますよ」
「・・・・・・・・お兄さん、それ、あんまり女性に言う言葉じゃないわ。」
「それは失敬。」
「ねぇお兄さん、ピオニー殿下とルークってどんな関係なのかしら?」
「そうですねぇ。変態と可愛い子ちゃんじゃないんですか?」
「お兄さん、真面目に答えて。」
一気にきつくなったネフリーからの視線に、ジェイドはやれやれと肩をすくめた。
「これ以上にないほど簡潔に説明したつもりなんですがねぇ。・・・・・とりあえず、今の所恋人らしいですよ? ルークは殿下の婚約者候補で、正妃候補です」
「正妃・・・・それは、ルークが赤い髪と関係あるの?」
「おや、気づきましたか? 譜術で一応髪色変えているんですがねぇ」
「ルークの着替えを手伝っていた女性は気づいてなかったわ。私も見間違いかと思ったんだけど・・・・・・本当なのね?」
「曲がりなりにも『死霊使い』の妹、ですか。ルークは、フリングス家の息女とは表向き、実はファブレ公爵の息女ですよ。次期キムラスカ王の双子の妹」
「・・・・・・双子の言い伝えが、」
「そうです。」
そこでジェイドはルークがどうしてフリングス家の養女になったのか、その経緯を簡単に説明した。
ネフリーはそれを聞くとしばらく沈黙し、小さく呟いた。
「ねぇお兄さん、殿下とルークは幸せになれるかしら?」
「どうでしょうね。それこそ本人たちにしかわからないでしょうよ。ですが、・・・・まぁ幼馴染ですしね。これ以上何かあって妻を娶らないとなったら物凄く面倒くさい上に厄介ですし! ・・・・・協力はするつもりですが?」
「私もよ。何かあったら、必ず連絡して。私も手伝うわ」
「ネフリー、」
「私も守りたいのよ。だってお兄さんや殿下を変えた可愛らしい天使さんのことが、私も好きだもの。」
「天使、ねぇ・・・? 美化しすぎじゃないですか?」
「あら、『死霊使い』を人間らしくしたのよ? それぐらいが丁度いいじゃない」
楽しそうに笑うネフリーに、ジェイドもまた小さく唇の端を上げた。
それはジェイドの無意識の微笑であったが、それを見逃さなかったネフリーはとても嬉しくなった。
もう、兄が怖いと思うことはないだろう。
もし、もう一度兄に恐怖を感じた時は、きっと目の前ではしゃぐ彼らに何かあったときだ。
ピオニーは、最後の仕上げにグロスをルークの唇に塗り、そしてそっと暖かそうな白いケープを羽織らせた。
「完成だ! ルーク、益々可愛くなったな! 我ながら素晴らしいv」
「本当? ルーク、ピオニーから見て可愛くなった?」
「勿論だ! いつも可愛いし、今も可愛いぞ〜v」
ピオニーがギュッとルークを抱きしめると、少女もまた嬉しそうに笑った。
「はいはい、殿下、ちょっとルークを離して下さい。」
「何だアスラン、邪魔するなよ」
「邪魔しているのはどちらですか、全く・・・。グローブを用意しといて正解でした。これで、包帯が目立たなくなるでしょう」
アスランが丁寧にルークの手に、レースのショートグローブを着けさせた。
その直後、控え室のドアがノックされ、係りの女性が一礼した。
「準備が整いましたので、新婦様は入り口の方へお願いいたします。」
そうして、ようやく待ちに待った結婚式が始まろうとしていた。
「お、ようやくか。じゃ、俺らは先に行ってるからな!」
「ヘマしないで下さいよ。」
「お兄さん、わざと緊張させる事言わないで」
「ま、貴方がヘマするんだったら、相手がそれ以上にヘマするんじゃないですか?」
「お兄さん!!」
そんな軽口を交わしてからネフリーと別れ、ルークたちへ礼拝堂で指定された場所へと移動した。
ジェイドは一応新婦の親族なので席が離れてしまったが、ルークはピオニーたちと一緒に、今か今かとネフリーが入場してくるのを待った。
新郎入場の際、自分を助けてくれた青年だと気づいたルークが声を上げそうになったが、すかさずピオニーの手が、少女の口を塞いだので事なきを得た。
そしてようやく新婦の入場だ。
「・・・うわぁっ」
父親と腕を組んで入場してきたネフリーに、ルークは思わず感嘆の声を上げた。
ルークたちと会った時のネフリーは、身体を冷やさないように上着を着ていた為どんなドレスなのかわからなかったのだが、静かにゆっくりと新郎の元へ向かうネフリーの姿は、とても美しかった。
純白のマーメイドラインのドレス。
彼女を神秘気的に見せるミドルベール。
その美しさを引き立てるのに一役買っているのが、自分が用意した『雪の華』だと思うと、ルークはとても嬉しくなった。
他の人間たちも、ネフリーの美しい花嫁姿に自然に感嘆の吐息を漏らしていた。
それからは、夢のようだった。
2人の誓いの言葉に、指輪交換、新郎がゆっくりと新婦のベールを上げ、誓いのキスをした後の、幸せそうな姿。
そうして、2人を祝福する賛美歌。
「・・・・いいなぁ。」
ルークも、いつかあんな花嫁さんになれるかな?
女性なら一度は夢見る舞台に、隣に控えていたピオニーがくすりと笑った。
「いつか、必ず。(その時はお互い偽りの姿ではなく、真実の姿で。)」
ピオニーの小さな誓いは、少女の耳まで届かなったけれど。
その日、誰もが幸せそうな2人を祝福した。
無事つつがなく式も終わり、ピオニーは背伸びして身体をほぐした。
「ん〜〜!! こういう式の難点は、身体が無駄にこる事だな。」
「これから披露宴もあるらしいですけど、どうします?」
「そんなの、」
「「帰るに決まってるじゃない(です)か」」
アスランの疑問に、いつの間にか帰ってきていたのか、ピオニーとジェイドの声が重なった。
「え、だっていいんですか!? 少佐に至っては親族なのに・・・・」
「いいんですよ。親族と言っても、私はもうカーティス家の人間でもありますし。何より披露宴に行ったって、折角のネフリーの式だというのに、馬鹿が絡んでくるに決まっています。」
ジェイドとサフィールは、このケテルブルグの天才と言われているのだから、これを機にお近づきなりたいなどと思う輩がたくさんいるに決まっている。
そんなことがわかりきっている場所に誰が行くというのか。
「ネフリーには一応断っておきましたから、大丈夫ですよ。」
「あ〜ぁ、折角の美味しそうな料理が・・・・・・」
「なーに言ってんだよサフィール! 無駄に豪華な料理より、絶対美味しいとお墨付きの料理の方が良いに決まってるだろ?」
「・・・・せめて着替えませんか?」
「却下。俺たちが着替えちまったら、ルークも着替えちまうだろ。俺はもうちょっとルークの可愛いドレス姿が見たい!」
ルークが寒くないように白いうさ耳付コートを着させて、男たちは皇太子の我が侭な言葉に思わず溜息を吐きながら、礼服の上からコートを羽織る。
そしてピオニーは我先にとばかりに、ルークを抱き上げた。
「・・・・で、絶対美味しいとお墨付きの料理とは何ですか?」
「ケテルブルグって言ったら鍋だろう!!」
ピオニーの言葉に何か思い当たる節があったのか、ジェイドとサフィールが納得した。
「あぁ、あの店ですか。」
「あそこの鍋は美味しいんですよね!」
「そうそう、あそこの切りたんぽ鍋は絶品だ。よーし、行くぞお前らーー!!!」
「「おー!」」
「やれやれ。」
「・・・困った人たちですね。」
乗り気なルークとサフィールに、これ見よがしに肩を竦めるジェイド、思わず苦笑してしまったアスランは、ピオニーに先導されて美味しい鍋料理屋へと繰り出したのだった。
≪おまけ・鍋料理屋での駄目な男たち≫
「ほらルーク、熱いから気をつけろよー? あーん」
「あ〜ん!」
手の使用禁止令が出てしまったルークは、先ほどから隣に座っているピオニーとアスランに食べたい物を取ってもらって、食べさせてもらっていた。
その姿はまさしく小動物に餌付けしているようで、ピオニーは内心悶えていたりする。
「ルーク、鍋美味しいだろう!」
「うん、美味しいv」
「よし、どんどん食え。次何食べる?」
「切りたんぽー」
「おぉ、好きだな切りたんぽ」
ルークの代わりに切りたんぽを取っていると、不思議な音を聞いた。
へくち。
思わずその音の発生源である少女へと、4人の男が視線を向ける。
その視線に気づいたのか、ルークは顔を赤くした。
「・・・・・・ルーク、今、何かしたか?」
「えと、・・・・・その・・・・・」
視線をふらふらと彷徨わせていた少女は、突然鼻と口を手で隠して。
へーくち。
そして、恥ずかしそうに小さく鼻をすする音が聞こえてきた。
「・・・・・・・ルーク、もしかして、今のくしゃみか?」
「ご、ごめんなさい!! 寒い所からいきなりあったかい所であったかい食べ物食べてるから・・・・!!」
「いや、それはある意味正しいんだが・・・・・」
今のはくしゃみだったのか。
・・・というのが、男たちの共通した心の声だった。
だからといって、こんな可愛らしいくしゃみの仕方があるだろうか。
ピオニーはあまりの可愛らしさに悶えすぎてテーブルに突っ伏し、アスランは若干頬を染めて視線を泳がせた。
ジェイドは思わず口元を隠して顔を背け、サフィールは顔を真っ赤にして硬直した。
少女は不思議そうに4人の男を見回し。
へくち。
またもや可愛らしいくしゃみが部屋に響いたのだった。
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