ルーク6歳、アスラン20歳、幼馴染23歳、ネフリー18歳  『祝儀。 3 』


「ネフリー、失礼しますよ!!」

 そう言って花嫁の控え室に入ってきたのは、花嫁の兄とその幼馴染と、可愛らしい少女だった。

「お兄さん、一体どうしたの?」
「話は後です。ネフリー、救急箱はありませんか?」
「救急箱? ちょっと待ってね、どこかにあるはずよ。」

 もうすでにドレス姿で細かな準備をしていたネフリーは、式場の係りの人間に至急救急箱を持ってくるように頼んだ。
 頼まれた方も切迫した雰囲気を感じ取ったのか、了解するとすぐさま部屋の外へと駆け出していった。

「今取りに行って貰ったわ」
「わかりました。ルーク、回復譜術は唱えられますね?」
「うん。」
「でしたら、自分にかけなさい。何もやらないよりかマシでしょう。」

 ピオニーがルークをすぐさま暖かい暖炉の前に座らせると、冷たくなった手を少しでも温めようと、小さな手を包んだ。
 ルークは突然の事態に何が起こっているのか良くわからなかったが、とりあえずジェイドの言うことを素直に聞いておく。

「・・・・癒しの力よ、ファーストエイド」

 暖かな光がルークを包み込むと、ルークの手の赤みも少し引いていた。

「もう少しかける?」
「いえ。あまりかけると自分の治癒能力自体が下がりますから、多用しない方がいいでしょう。」

 そしてちょうどそこに、先程の係りの人間が救急箱を持って部屋に戻ってきた。

「こちらになります!」
「ありがとう。ごめんなさい、後の準備は自分でやれますから・・・・」
「はい。また何かございましたら、お気軽に係りの者にお申し付け下さい。」

 ジェイドが係りの女性から救急箱を受け取ると、すぐさま少女の手を手当てし始めた。
 ネフリーの言葉に係りの女性が退出する頃には、すでにルークの小さい手は、手首まできっちりと白い包帯が巻かれていた。

「全く、ケテルブルグの木を素手で登るなんて・・・・その所為で凍傷寸前だったのですよルーク。わかっていますか?」
「ご、ごめんなさい・・・・」
「いいですか? 回復するまで手を極力使ってはいけませんよ?」
「はーい」

 しょぼーん、と落ち込む少女を、ピオニーがよしよしと頭を撫でてやっていたその時、ドアのノック音が響いた。

「お忙しい所申し訳ありません。アスラン・フリングスと申しますが、こちらにカーティス少佐はいらっしゃいますでしょうか?」
「開いていますよ、フリングス中佐。ルークも一緒です」
「どうぞ、お入り下さい」

 ジェイドとネフリーの言葉に、アスランは余程急いできたのか、手に大荷物を持って部屋に入ってきた。
 一度ネフリーに頭を下げてから、視界に少女の姿を見つけると、荷物を放り出してアスランはルークに抱きついた。

「心配しましたよ、ルーク!」
「ごめんなさい、パパ」
「カーティス少佐から理由も聞きましたよ。ルークは責任感の強い子です、贈り物を用意してないと心配になったのですね。私もちゃんとルークに話していませんでしたから、お相子です。すみません、ルーク」

 少女の両頬にキスをすると、ルークも同じようにアスランにキスをした。

「カーティス少佐、ルークを見つけて下さってありがとうございました。」
「まぁ、ルークを助けたのはオズボーン氏でしたが。」
「そうなのですか。では改めて後でご挨拶しに行かないといけませんね。」

「お兄さん、もうそろそろ私にも紹介してくれるかしら?」

 状況が落ち着くまで見守っていたネフリーの言葉に、ようやくジェイドはルークを紹介してないことに気づいた。

「あぁ、そうでしたね。ルーク、」
「はい。」
「ネフリー、この子は前に私が教えたように、私の教え子でフリングス中佐のご息女のルーク・コーラル・フリングス嬢です。ルーク、これが私の妹で今回の主役の一人、ネフリーです。」
「これがって何ですか、もう! ・・・・・こんにちは、可愛らしいお嬢さん。私はジェイド・カーティスの妹のネフリーです。」
「お初にお目にかかります、ルーク・コーラル・フリングスと申します。いつもジェイドお兄さんにお世話になっています。」

 幼い口調で頑張って自己紹介して見せたルークだったが、レディらしくスカートの代わりにコートの裾を掴んで礼をしようとした所で、ジェイドのにこやかな笑顔が止めた。

「ルーーークv 私はさっき何て言いましたっけ?」
「え、と・・・・」
「手を極力使わないようにって言いませんでしたっけ?」
「あ! で、でもご挨拶が・・・・・」
「十分挨拶は出来ていますから、礼までいりませんよネフリー相手に。」

 ジェイドはそう言うが、本当にいいのだろうかとおろおろとピオニーやアスランを見つめてしまうが、彼らは苦笑しただけだった。
 ネフリーもまた、優しく微笑んで見せた。

「ジェイドお兄さんの言う通りよ。きちんと挨拶できて、偉いのね。怪我をしているのだから、無理はしなくていいわ」
「・・・・はい。えっと、あの、このたびは、ご結婚おめでとうございます!!」
「ありがとう。こんな可愛いお嬢さんに祝ってもらえるなんて、私は幸せ者ね」
「どうぞ、ルークと呼んで下さい。」
「あら、じゃぁ私もネフリーでいいわ。それに言葉も、堅苦しいのはお互いなしにしましょう!」

 にっこり笑ったネフリーに、ルークは恥ずかしそうに頬を染め、こくんと頷いた。
 そこでジェイドが割り込んだ。

「すみませんが、詳しい話はまた後にしましょう。私たちも式に出席する準備をしなくちゃいけませんし・・・」
「少佐と殿下の礼服も持ってきましたから大丈夫なんですが・・・・・・・」

 そこで男たち3人は、手に怪我をしてしまった少女を見下ろした。

「る、ルーク大丈夫だよ!」
「却下。ネフリー、先程の係りの女性にルークの着替えを手伝ってもらってもいいですか?」
「えぇ、大丈夫よ。」
「その際手を使わせないようにお願いします。準備が終わり次第、すぐにこちらに戻ってきますので、ルークのは着替えだけお願いします。」
「髪とかはいいの?」
「こちらでやりますから。」

 ジェイドの言葉に一瞬驚いた彼女は、すぐに笑って見せた。

「わかったわ。それじゃ、すぐに戻ってこなくちゃ駄目よ。レディに恥ずかしい思いをさせたら、男の人は紳士失格ですもの」

「勿論です。」
「それでは、また後程」
「ネフリー、ルークを頼んだぞ!」

 男たちが自分の分の荷物を持って退出すると、交代するように先程の女性が入ってきた。

「オズボーン様、お呼びでしょうか?」
「この子の着替えを手伝ってあげて欲しいの。手に怪我をしているから、気をつけてあげてね」
「はい、かしこまりました。」

 女性がルークのうさ耳フードを取った瞬間、ネフリーの目には鮮やかな赤い髪が一気に銀髪になったように見えたのだが、女性の方はそれに全然気づいていないようだった。
 思わず首をかしげてしまうネフリーだったが、ジェイドが『話は後』と言っていたのを思い出して、とりあえず今は何も聞かない事にした。
 少女がジェイドの言葉を必死で守ろうとして、なるべく手を使わないようにしている可愛らしい様子を見て、ネフリーは感慨深く口を開いた。

「・・・良かったわ」
「え?」
「ジェイドお兄さんの事。昔はもっと怖かったのだけれど、・・・・ルークの影響かしら? とても優しく笑っていたわ」
「ジェイドお兄さんは、厳しいけどいつも優しいよ?」

 少女の不思議そうな言葉に、ルークの着替えを手伝ってくれている女性は驚いたように目を見開いているし、ネフリーは嬉しそうに笑った。
 あの『死霊使い』が、厳しいけどいつも優しいとは・・・・・変われば変わるものである。
 それともこの少女限定なのか。
 多分その通りなのだろうが、人間としていい変化であることには変わりない。

「・・・・そう。グランコクマでは、いつも賑やかなの?」
「うん、今ちょっとサフィールお兄さんがダアトに行っちゃってるんだけど、サフィールお兄さんは打倒ジェイドお兄さんを目指してるし、ジェイドお兄さんとパパはいつも宮殿を脱走する殿下と追いかけっこしてるよ!!」
「ふふっ、それは楽しそうね! ・・・・本当に良かった。お兄さんたちも、あの方も、元気そうで・・・・」

 言葉の最後の方は小さくて、ルークは聞き取れなかった。
 何と言ったのか聞き返そうとした所で、着替えを手伝ってくれている女性に後ろのファスナーを閉めるからと、後ろを向かされて結局言葉にできなかった。

「・・・・オズボーン様、髪はどう致しましょう?」
「ふふっ、大丈夫よ。お兄さんがやってくれるみたいだから」
「え、バルフォア博士がですか!?」
「驚きでしょう? 私も驚いたわ、あのお兄さんがそんなこと言うなんて。だからそのままにしておいてあげて。」
「はい、かしこまりました。凄く可愛いですよ!」

 何年も結婚式などに携わる仕事をしてきた女性もうっとりとするほど、少女はとても愛らしかった。
 彼女の為に用意されたプリンセスドレスは、花嫁と同じ純白で少女の清楚さをさらに強調している。
 本音を言えば髪までいじりたかったのだが、仕方ない。
 女性は少女の姿を瞼に焼付け、後で同僚たちに自慢してやろうと機嫌よく部屋を退室して行ったのだった。


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