旅人に扮しグランコクマを出た2人だが、ルークは初めてグランコクマから出たこともあって、あっちへふらふらこっちへふらふら、見ている方としては危なっかしい。
ルークに気づかれないように、自分たち2人にホーリーボトルをかけておいて正解だったとピオニーは1人で納得しつつ、彼はルークの手を取って、方向転換した。
「? ピオニー、テオルの森抜けないと・・・」
「あそこは軍の最終防衛ラインで、常時軍人が詰めてるんだ。人間は誤魔化せるかもしれないが、どうにも獣の鼻だけは、な。」
「じゃぁ、どうするの?」
「ふふん、道は一つじゃない。いつの世にも、どこにでも抜け道脇道ってのはあるもんだ。」
にやりと笑って、ピオニーはルークと繋いでいる手とは別の手に握っている綱の先を見た。
彼が手懐かせているのは、本来騎馬隊や辻馬車で使われるような恐竜型の魔物だ。
ちゃんと調教されているからか、とても大人しい。
「これでもこいつは、どっかの馬鹿から献上された特別製の魔物でな。体力、脚力、速さもある。」
そう言いながら、ピオニーはルークを魔物の背に乗せた。
その後ろに、ピオニーも身軽の跨る。
「見る奴が見れば、特別性だってわかっちまうがな。今から行くのは、裏道中の裏道。ま、何とかなるだろ。」
「テオルの森を抜けずに?」
「あぁ。崖越えと山越え。・・・・スリリングだろ?」
確かにスリリングだろう。
というか、そんな所で魔物にでも襲われたらどうするのか。
だがピオニーは、うきうきと手綱を握り魔物を走らせ始めた。
ルークはと言えば、不安そうな表情をしているが、ピオニーの言葉に恐怖したわけでもない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に今日中に帰れるのかなぁ?」
突っ込むところが違うのは、父親譲りの天然か、それとも死霊使いとの恐怖の特訓ゆえ耐性がついたからか。
「まずは東に迂回する。そこでちょっくら崖越え楽しんで、それから南下する。うまく行きゃ半日で崖越えできるだろ。」
あっけらかんとしたピオニーの言葉に、ルークはますます眉をハの字にさせたのだった。
だが、決まってしまったのならしょうがない。
後はその範囲で楽しんだほうが、精神的にも断然いい。
意外と早く疾走する魔物に、ルークは目をキラキラさせた。
「どうした、ルーク?」
「ううん、風が気持ちいいなぁって!」
「あぁ、そうだな。」
「ルーク、初めて魔物さんに乗ったし!」
「いや、普通軍人じゃなきゃ直に乗んねぇだろうなぁ? そういう事を考えると、今回はすごい貴重な体験だぞ」
「うん!」
我が侭を言えば、ルークはゆっくりと外の世界を堪能したかった。
それこそ道端に咲く花をゆっくりと見つめられるくらいに。
だが近いと思っていたエンゲーブは、それなりに遠かったらしい。
森の木々がぐんぐんと遠ざかっていくのを見つめながら、ルークはそっとピオニーの胸に寄りかかった。
この先、ゆっくりと世界を見て回れる日が、いつか来るだろう。
そう結論付けて、今は後ろから回される力強い腕の中で、ルークはそっと微笑んだ。
ややもすると、目の前に緩やかな岩の壁が迫ってきていた。
「あれ、越えるの?」
「そうだ。」
「どうやって?」
「こうやって、だな!」
ピオニーは、崖前まで来るとそのまま魔物を跳躍させた。
「うわっ!?」
「落ちたくなかったらしっかり掴まってろ!」
ルークの予想以上に大きく跳躍した魔物は、適当な足場で着地し、すぐさま崖を乗り越えていく。
それを数回繰り返していくと、すぐに崖越えできてしまった。
「・・・・・結構跳ぶんだね・・・・」
「怖かったか?」
「うぅん、ちょっとビックリしただけ! でもピオニー・・・・・何か手馴れてる?」
「つまりは、そういう事だなv」
にやりと笑った皇太子殿下は、どうやら前にもこのルートを通った事があるらしい。
一体この人は宮廷大脱走する度どこまでいくのやら。
「あんまり、パパとジェイドお兄さんに迷惑かけちゃダメだからね?」
「安心しろ。この所、俺が通っているのはお前の所以外あり得ないから」
それもどうなのだろうか。
だがルークの場合、『とりあえず自分の家に来るんだったら護衛の人たちとかメイドさんとか居るからいいや』、で終わった。
再び魔物を走らせていると、ルークの目に不思議なものが映った。
「ピオニー、ちょっと待って!」
「どうした?」
少女の突然の制止に、ピオニーも慌てて魔物を止めると、ルークは身軽に魔物の背から飛び降りた。
少女に続いて魔物から下りたピオニーは、不思議そうに少女の後を追う。
ルークがじっと見つめるその先に、地面から得体の知れないものが直立に生えていた。
「枝・・・・じゃないな、何かの柄か?」
「うん、そうみたいだね」
ルークがそれを引き抜こうとするのを制して、ピオニーは少女の代わりに引き抜いてみると。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでこんな所に包丁が。」
そう、引き抜いた謎の物体こそ、紛れもない包丁だったのだ。
心底呆れたように肩を竦めるピオニーだが、その包丁を見て目をキラキラとさせるルークには驚いた。
「これっ、幻の『万能包丁』だ!」
また何か聞きなれない言葉を聞いた。
「何だそれ?」
「サフィールお兄さんが教えてくれたの! その包丁を使えばどんな料理でも成功するって! すごいっ、幻って言われるだけあって、世界に片手にも満たない数しかないんだって!」
きっと世界がルークの事、料理頑張ってねって応援してくれてるんだよ!
と、非常に嬉しそうな少女に対して、ピオニーは実に複雑だった。
いやだって普通、包丁は埋まってるものじゃないだろう。
しかも見事なまでに刃の部分だけ埋もれてて、直立不動だなんて普通あり得ない。
確かにピオニーは皇族で包丁など自ら握った事はないが、埋もれて発掘する物ではない事だけは理解している。
まぁ少女が喜んでるならいいか、とあっさり思考を放棄し、魔物に括りつけてある道具袋にそれを入れた。
「満足したか?」
「うん! ピオニー、止まってくれてありがとう!!」
「どういたしまして、だな!」
ルークを再び魔物に乗せ、今度こそ出発させた。
・・・・・・・・のだったが、少しも行かない内に、今度はピオニー自ら魔物を止めた。
「? どうしたの?」
「なぁ、あの木の根元に埋まってる奴、何だと思う?」
「え?」
ピオニーが訝しげに見下ろすそこに、不思議な緑に輝く球体があった。
「地雷・・・・の類じゃないな。」
「違うと思う。・・・・・でもとても大きな力を感じるよ?」
ルークが目を閉じながら、意識を世界に流れる音素に集中させると、確かに目の前の物体は他とは比べ物にならないほどの力を宿しているのがわかる。
「普通の譜石・・・でもないな。響律譜にも、こんな物はないはずだ。」
「どうするの、ピオニー?」
「ふむ・・・。持って帰れば約一名狂喜乱舞しながら研究しそうなのがいるな。」
「二名じゃなくて?」
「ジェイドは理論とか生物研究専門だ。」
言われてみれば、確かに。
変な所で納得してしまったルークを他所に、彼は慎重に大きな力を宿す緑の譜石を手に入れた。
それを先程包丁を入れた道具袋に丁寧にしまい込む。
「何だかルークといると、変わった物を目にするな!」
「・・・おかしいかな?」
「いいや、楽しいって事だ!」
不安そうな少女に男は明るい笑みを浮かべ、笑った。
「これも、何かの役に立つんじゃないか?」
半ばどうでもよさそうに答えるピオニーだが、2人は知らない。
実はその譜石・・・・『大飛譜石』と呼ばれるロスト・テクノロジーの結晶であり、後にシェリダンの技術者から喉から手が出るほど欲しがられ、代わりにアルビオールと呼ばれる空飛ぶ譜業機を一機貰い受けるなど、今はまだ、予想だにしてなかった。
「・・・・よし、ここを抜けたら最後の崖越えだ。それを超えたら、海が見えるぞ」
「海? グランコクマは海に囲まれてるんだよね?」
「あぁ、そういう意味じゃない。海があって、砂浜があるところなんだ。」
「砂浜?」
「そうだ、光に輝いて綺麗だぞ。水着があれば、入ってもよかったんだが・・・・今回はそれが目的でもないし、また今度にしような!」
「うん!」
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