これはもしかしてもしかしなくとも、絶好のチャンスではないだろうか。
ピオニーから告白を受けて早くも半年。
その間ジェイドからは宮廷作法と譜術を。
父であるアスランからは、勉強と剣術を習ってきた。
2人とも普段はルークに対して優しいのだが、勉学や稽古となると途端厳しくなる。
それは『ピオニーを守る』決意をしたルークにとっては、願ったりなのだが。(実際ルークは良い弟子でもあった。)
だが今日は珍しくも、その2人の稽古事の予定はない。
ジェイドは確か「故郷に野暮用」だと言っていた。
アスランは遠征に行っている。(どこに行くかまでは教えてくれなかった。軍の仕事ならば仕様がない事なのだが。)
既にサフィールはダアトに出かけている。彼からの手紙が届く予定もない。
つまり、今日一日完全オフ。
しかも天気は快晴。
今日出かけなくして、いつ出かけると言うのだ。
思い立ったら吉日行動。
ルークはさっさとジェイドが置いていった宿題を終わらせ、アスランから貰ったルークでも扱える小ぶりの剣を腰に装備し、ルーク専用フードコートを着用し(ちなみに今日は茶色の猫耳フードだ。しっぽもしっかりついている。)忘れずアイテムも持って、そっと部屋から抜け出した。
そしてピオニーから教えてもらった隠し通路を使って、外に出るつもりだったのだが。
「あっ!」
「!!?」
ピオニーと自分以外知らないはずの隠し通路内で、誰かとぶつかった。
いや、誰かなんてわかりきってる。
「・・・・ルーク?」
「ピオニー!? どうしてここに?」
マルクト帝国皇太子殿下(未来の夫。予定)が、ルークの目の前にいた。
「そりゃこっちの台詞だ。ジェイドとアスランがいないから、安心して王宮抜け出してきたのに。」
2人がいないだけで安心して王宮脱出できるのか、という突っ込みはしてはいけない。
「しかもその格好、どっかにでかけるのか?」
「うん。ちょっとエンゲーブまで。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
今この少女は何て言った?
たった6歳の少女が、一人で剣持って猫耳フードで、しかもエンゲーブ?
普通の人間だったらここで必ず止めるだろう。
少女が如何に剣を使えようが(下手すれば一兵卒に余裕で勝てる。)、譜術を行使できようが(何せジェイドが教官だ。)、保護すべき少女であることには変わりない。
だが生憎、少女の未来の夫(仮定)は、普通なはずが無かった。
「何だ、面白そうじゃないか。」
にやり、と笑って目を輝かせた。
「ピオニー、お仕事は?」
「今日はジェイドもアスランもいないからな、誰も俺を見つけられないから問題ない!」
そういう問題なのだろうか。
だが悲しいことかな、突っ込み役の保護者たちはここにはいない。
ルークは純粋に「そうなんだ、」と納得してから、小首を傾げた。
「でもピオニーは大切な人なのに・・・・」
この国にとっても、自分にとっても。
その言葉に、ピオニーは目を丸くしてから苦笑した。
そして猫耳フードごとルークの頭をガシッと掴み、視線を合わせた。
「あのなぁ、それを言うんだったら、ルークだって俺の大切な人だ。勿論、この国にとってもな」
最後に、「何せ未来の皇妃だからな。」と告げたかったが、今はまだその時ではない。
1回目の告白が受け入れられたからと言って、2回目3回目はどうなるかわからないからだ。
それを抜かしても、少女に何かあった場合保護者たちの怒りが恐ろしすぎる。
あの2人がタッグを組んだら、確実にグランコクマは海の藻屑になるかもしれない。
「一人で行かせるのは、俺が心配だ。俺の方が脱走歴も長いしな!」
威張れることじゃないが、確かにピオニーがいた方が断然安全だろう。
「ん、わかった。じゃぁ、一緒に行こう?」
「あぁ! と、そういう事ならちょっと待ってろ」
「ここで?」
「すぐに戻ってくる。」
彼はそう言うと、ルークが歩いてきた方・・・・アスランの家の方へと走っていった。
しばらくすると、彼は一見旅人を装っていた。
「どうだ?」
「すごーい、髪の色変えるだけで印象が変わるね!」
「ふふん、魅力的だろv」
光に輝く豪奢な金の髪は、今は漆黒に変わっていた。
いつもは明るい雰囲気が前面に出されているのだが、髪色を変えるだけで印象ががらりと変わる。
どちらかというと今はどこか影があるような男だ。
「髪は染めちゃったの?」
「いいや、譜術の応用。解こうと思えばすぐに戻る。何だ、お気に召さないのか?」
「ううん、その姿もカッコいいけど、いつものピオニーがもっとカッコいいかなって・・・」
えへへ、と照れ笑いするルークに、ピオニーは破顔した。
「嬉しいこと言ってくれるぜ、俺のお姫様。」
そしてお礼とばかりに、彼は少女の額にキスをした。
「さて、そろそろ行こうか。」
「うん!」
当然の如く差し出される手に、ルークは嬉しそうに自分の手を重ねて、手を繋いで2人は歩き出した。
「そういや、聞いてなかったな。エンゲーブに何しに行くんだ?」
「もうすぐジェイドお兄さんやパパが帰ってくるでしょう? だからルークが自分で材料を買ってきて、お疲れ様料理を作ろうかと思って。」
「だが材料ならグランコクマでも・・・」
「ダーメ、なの! 材料は新鮮が命! なんだって。」
「・・・・・・・・・誰だそんなこと教えた奴。」
「サフィールお兄さん。」
少女の言葉に、ピオニーは「あぁ、確かに奴は料理にこだわっていたな。」と理解したが、それを知った時のジェイドとアスランの行動が怖い。
ま、自分には関係ない、とあっさり見限る。
ピオニーだって巻き込まれるのはゴメンだ。
「それにパパの好物も、エンゲーブでしか手に入らないんだ!」
「アスランの?」
アスランに嫌いな物はない、としか知らなかったピオニーは、少し目を丸くした。
「うん、パパはエンゲーブ特性リンゴが好きなの。」
「は? 普通のリンゴとは違うのか?」
「別名『黄金のリンゴ』」
「はぁあ?」
そんなこと聞いた事もない。
だが戸惑う彼を無視して、少女は神妙な顔をして話を続けた。
「これもサフィールお兄さんが聞いたんだけど、作った人でも『これは素晴らしい!』て奴は、市場には出ないんだって。で、サフィールお兄さんが偶然手に入れたそのリンゴを、パパとルーク食べたことがあって。それ以来、普通のリンゴでも美味しそうに食べるんだけど、『黄金のリンゴ』を前にすると目が輝くの。」
「へぇ〜?」
今年ようやく公式に成人となったアスランの、意外な姿である。
「でね、これもサフィールお兄さんから教えてくれたんだけど、そのエンゲーブには『黄金のリンゴ』を使った、果実酒があるんだって。しかもそれ、美容と疲労回復にいいんだって。だからそれも頼み込んで何とか買わせてくれないかなって思って。」
美容と疲労回復。
疲労回復はともかく、美容って何だ美容って。
むしろアスランに美容っていらないだろ。
と、思わず心の中でピオニーは突っ込んでしまった。
だが彼も気づかない。
むしろルークを含めた、少女の周囲の男ども全員美容効果がなくとも、かなりの美形であることを。
「・・・・具体的に料理は何を作るんだ?」
「果実酒が用意できたら、カレーにしようかなって思って。」
こっちはジェイドの好物だ。
大好きな大人たちの為に、ここまで気を利かせる娘もいないだろう。
ピオニーはそれが誇らしくて、歩くスピードを少し上げた。
「だったら、なるべく早く帰ってこなくちゃな!」
「うん!」
こうして、マルクト帝国の未来の皇帝と皇妃は、グランコクマを出発した。
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