ルーク5歳、謎の光る物体L2×××歳  『讃歌。』


「とぅえーれいーつぇーくろあーりょとぅえーつぇー・・・・」

 物心ついた時には既に覚えていた歌を、少女は歌う。
 誰に教えてもらったかなど覚えていない。(育ての母が歌っている所も見たことないのだから、きっと違うのだろう。)
 つらい時、この歌を歌っているとなぜか安心できたのだ。
 アスランに引き取られてからは歌ったことはなかった。
 彼が少女にほどこしてくれるのは、無償の愛情と幸福。
 満ち足りた今。
 今日も少女の父親は、少女の初恋の男を守っているはずだ。

 ピオニー、ピオニー・・・・・会いたいな。

 大好きな父親より年上の、しかも次期皇帝という肩書きを持った男を思い出してルークは頬を染めた。
 彼にとっては、お気に入りの部下がつれている得体の知れない子供、なのだろう。
 実際自分でもそう思っているのだ。
 そんな自分を、彼が一回りも二回りも小さな少女を本気で好いてくれるはずもない。
 だからといって諦める事はできない。
 せめて、せめて、彼にふさわしいとても綺麗などこかのお姫様がくるまで想うことを許して欲しいと思う。

「パパ、早く帰ってこないかな〜?」

 一人遊びをするのは嫌いじゃないが、ずっと遊んでいると飽きてくる。
 庭園で寝っころがりながら、ルークはうつらうつらと現実と夢の狭間を行き来していると、ふと視界の片隅にオレンジ色の光の球体がふわふわと浮かんでいるのが見えた。
 その光の球体は、ルークの周りをふわふわと浮かんでいて、ルークは目をこすりつつ上体を起こした。

「・・・・・何だろう?」

 先ほどよりかはっきりした視界でも、やはりオレンジ色の球体はルークの周りをあっちへふわふわ、こっちへふわふわと飛行している。
 大きさはちょうどルークの手の平よりちょっと大きめサイズの球体は、ルークが手を差し伸べると、ふわふわと浮かびながらその手の平の上におさまった。

「・・・・うわぁ! きれーい・・・・」

『飾り気がない言葉だが、だからこそ余計照れるな。其方の言葉、嬉しく思う。』

 ルークとしては思わず呟いてしまった独り言のつもりだった為、どこからともなく聞こえてきた男の声に少女はビックリして、目を大きく見開いた。
 そんなルークに声と共に光の球体がかすかに震えた。

『フフ、そんなに驚いては目が零れ落ちそうだぞ?』
「・・・・・あなたがルークに話しかけているの?」
『如何にも。其方の歌に呼ばれ、ごく一部といえど我はやって来た。』
「歌? ルークが歌ってた歌?」
『然様。流石は我が見込んだ娘、良い歌だった』
「ありがとー!!」

 相手が何であろうと、褒められることは嬉しいものだ。
 よってルークは満面の笑みで、球体へと笑いかけた。

「ルークは、ルーク・コーラル・フリングスっていうの! あなたはだーれ?」
『我が名はローレライ。』
「ローレライ?」
『如何にも。』
「ローレライはどうやって家に入ってきたの? 今パパはいないけど、パパの部下さんたちはいるはずだよ?」
『我にはそんなモノは意味を持たない。我の声を聞き、我の姿を見え、我を認識することが出来るのは、今この場で其方のみだからだ。我は其方の歌に引き寄せられたのだ』
「さっきも言ってたよね、それ。でもルーク、ただ歌ってただけだよ?」
『フフッ、歌っただけでもよい。あの歌は遥か昔、我と我の友とで作った歌。』
「そうなの? ローレライが作ったんだ・・・・すごい! でもルーク、どこで覚えたのか知らないんだ。そんな有名なの?」
『いや、知るべき者が知っていれば良いものだ。』
「・・・・・・よくわからない。」

 難しそうに顔を歪める少女に、声は小さく笑った。

『今はわからなくとも、いつか必ず判るときが来る。それよりも、出会えた記念だ。ルーク、我の誓約者とならないか?』
「せいやくしゃ、ってなーに?」
『・・・・そうだな、友のようなものだ』
「ルーク、ローレライとお友達になるの!? なる! なる!!」

 目をキラキラ輝かせる少女に、ローレライが今人間の姿であったなら、ジェイドのようににっこり笑んだであろう。
 だが幸か不幸かローレライは今、ただの光の球体。
 彼の機嫌など声の調子でしかわからなかった。

『では、友達になろう、ルーク。其方が寂しい時、あの歌を歌えばいつでも側にいよう。ただし、ルークの前だけでだ。他の人間が一緒の時は、姿を現すことはできない。我の名を出すこともだ』
「・・・・・パパにも、内緒?」

 途端不安そうになるルークに、ローレライは優しく言った。

『大丈夫だ。本当に我の力を必要となった時は、我は姿を現す。それまでの間だ』
「?・・・・うん、わかった。」

 約束だよ、と小さな小指を差し出そうとしたが、相手は何せ光る球体。
 指きりげんまんが出来なくて、ルークは思わず困ってしまった。
 そんな少女の葛藤に気づいたのか、ローレライは軽く明滅すると暖かな光がルークの手の平の上に落ちてきた。

『これは約束の証だ。』
「え?」

 驚いて自らの手の中にある物を凝視すると、そこには見事な金細工のペンダントがあった。
 羽を模した様な精巧な円状のペンダントに、柔らかで漆黒の紐が結ばれている。
 キラキラと輝くペンダントに、ルークは思わず頬を染めて声を上げた。

「きれー!!!」
『気に入ったか?』
「うん! でもこれどうしたの?」
『それは我の譜陣を象ったもの。それを身につけ歌を歌えば、繋がりやすくなる。普段も身に着けていれば、守護の作用もある。』
「・・・・もらっても、いいの?」
『言ったであろう、約束の証だと。』

「ありがとうっ!!!」

 うわーい! とはしゃぎながら、早速身に着ける少女をローレライは暖かく見つめていた。

「どう? どう!?」

『よく似合っている、ルーク』

 少女の白い肌の上に滑る緩やかな漆黒の紐。
 そして薄く精巧な金のペンダントは、少女にとても似合っていてローレライは大いに満足した。

「ホント? ありがとー!」
『礼には及ばん。』

 嬉しそうなはしゃぐ少女に、ローレライは苦笑して光る球体である自身をルークの頬に擦り寄り撫でて、落ち着かせる。

『・・・・退屈していたのであろう? 其方の父親たちがこの館に帰ってくるまで、傍にいよう。何がしたい? ・・・・と言っても、この姿では一緒に遊べる物は限られているが。』
「じゃ、一緒に歌おう!? あの歌、ローレライが作ったんでしょ? ルーク、聞きたい!」

 好奇心に目を輝かせたルークに、ローレライは勿論快諾した。

『だが一人で歌ってもつまらないだろう? 共に歌おうぞ、ルーク』
「うん!!」

 そうして光り輝く庭園に、男の落ち着いた歌声と少女の清らかな歌声が響き渡り、それは少女の父親が家に帰ってくる時間である日が沈むその時まで、時折明るい笑い声と共に続けられた。


 もう、寂しい歌は聞こえない。


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