ルーク4歳、アスラン18歳、幼馴染21歳  『寵愛。 後編』


 所変わって食堂。

 そこでも痛い沈黙が漂っていた。
 誰もが近づかぬようにしている奥の席に、帽子をテーブルの上に置いて、アイスクリームを舐める可愛らしい少女と『死霊使い』と恐れられる男がこれまた仲良くアイスクリームを食べていたからだ。
 しかも少女が強請ったのか、ジェイドは少女を膝の上に座らせていた。

「ジェイドお兄さん、さっきから溜息ばっか。おつかれなの?」
「・・・・・いえ。ちょっと頭が痛いだけです・・・・・」
「ふぅーん。・・・・・ルークは大丈夫だけど、ジェイドお兄さん、頭が痛いならあったかい飲み物飲めば治るよ!」

 ジェイドの頭痛の原因を、あっさりアイスクリームの冷たさの所為だと勘違いしたルークに、ジェイドは違う意味でまたもや頭を押さえた。

「はい!」
「・・・・・・はい?」

 ルークは食べかけのアイスクリームをジェイドに差し出して、訝しげに眉を顰めながらもジェイドはそれを受け取った。

「パパが言ってた。ここって飲み物とか自由に飲んでいいんでしょう?」
「まぁ、そうですね・・・・」
「ルークが何か暖かい飲み物持ってきてあげる! 何がいい?」

 ジェイドの膝の上からぴょんっと軽く飛び降りて、眉を顰めたままの男を見上げた。
 そのいかにもやる気満々、何でも言って!状態の少女に、ジェイドは諦めたようにもう一度溜息を吐いてから呟いた。

「・・・・・・・コーヒー。ブラックでお願いします・・・・・・・」
「はぁ〜い」

 手に持っているアイスクリームのように甘ったるい可愛らしい声をあげ、ルークが遠巻きにこちらを窺がっていた兵士たちの中へと姿を消した。
 そのちらちらと見える少女の後姿に注意を払っている自分に溜息を吐くと、ふと、切っても切れない・・・・・・・・切れるもんなら今すぐ縁を切りたい下僕ともいえる幼馴染の気配が急速にこちらに向かってきていることに気がついて、心底不愉快そうに顔を顰めた。
 きっとどこかでジェイドが見知らぬ少女と一緒に居るだとか、聞いたのだろう。
 できることなら今すぐにどっかに移りたい。
 だがルークに頼んでしまった手前、動くこともできない。
 すぐに来てしまうだろう騒音の元に、ジェイドはさらに機嫌を下降させたのであった。
 冷気まで漂わせてきた死霊使いに、構わずルークはおぼんの上にコーヒーと自分の分である紅茶を慎重にこぼさないようにゆっくりと運ぶ。
 その真剣ぶりに思わず外野もジェイドもルークを見守っていたが、もう一方で「きゃ、」とか「うわっ」という声と共に人垣が崩れるのが見えた。
 思わずそちらの方に視線を向けると、その原因たる男もジェイドの存在に気づいたようで迷わずそこに足を向けた。
 男の視界に入るのは幼馴染であるジェイドだけで、彼の足元近く少女が騒ぎにも気づかぬほどに慎重にコーヒーを運んでいるのまでは目に入らなかった。
 結果。

「ジェイドーーーー!! 貴方一体どういうつもり・・・・・・っ!?」

「・・・あっ!」

 早足で近づいてきた男・・・・サフィールと少女がぶつかり、食堂内に大きな何かが壊れるようなガチャンと言う音と、強く何かをぶつけたようなゴンッ!という音が鳴り響いた。
 誰もが沈黙し、ジェイドだけが無表情に何があったのかと頭をフル回転させる。

 ガチャン・・・・という音は、ぶつかった際にルークがコーヒーと紅茶を落としてしまったのだろう。
 ゴンッ!という痛そうな音は、ルークがそのまま体勢を崩して赤くなっている額の場所をテーブルの角にぶつけたのだろう。

 しかもさらに不幸なことに、テーブルに衝撃が伝わった所為か、帽子とアスランからの手紙がひらりと舞い落ち、ルークの白い服同様、コーヒーと紅茶の液体によって黒く染められていく。
 もう一つおまけにジェイドのほとんど食べられてなかった二段重ねのアイスクリームの内、上に乗っかっていたミントまでがテーブルの上に落ちた。
 呆然としたままの少女と、自分の周囲におきたプチ惨状にジェイドはゆっくりと立ち上がり、無表情から一転、にっこりとサフィールに向けて笑って見せた。
 過去、その一癖も二癖もついでに三癖までありそうな満面の笑顔に、幾度となく容赦ない仕打ちを受けてきたサフィールにとって、それは悪魔の笑顔そのものにしか見えない。
 思わず数歩後ろに下がってしまうのも、仕方ないといえるだろう。

「・・・・ひっ!?」
「・・・・・サフィール、来た早々悪いのですが、即刻ご退場願えますか? あぁ、すみません。『お願い』じゃ貴方は出て行ってくれませんよね。出て行ってくれないのだったら、実力行使も仕方ありませんよね。」
「ちょ、待ってくださいジェイド!? ここは食堂っ!?」

「誰が待てといわれて待ちますかっ。――――――雷雲よ、我が刃となり敵を貫け! サンダーブレード!!」

 今居る所が食堂だろうが何だろうが構いもしないジェイドに、すでに外野の兵士たちは散り散りになって逃げていった。
 残されたのは笑顔全快のジェイドと、怯えるサフィール、そして呆然としたままのルークのみだ。
 ジェイドはさりげなくルークを守りつつ、容赦なく元凶へと雷の鉄槌を振り落とした。

「うっぎゃあああああああ!!!!?」

 叫び声と共に、衝撃で窓を突き破ってどこかに飛んでいった幼馴染を軽く一瞥して、譜術の影響でさらに溶けてしまったアイスクリームをテーブルに放り投げ、座り込んだままのルークに視線を合わした。

「・・・ルーク、」
「どうしよう・・・・?」
「何が、ですか?」
「だって、パパから初めて任されたお使いだったのに、お手紙汚れちゃってもう読めない・・・・。パパが買ってくれたお洋服も帽子も、みんな汚れちゃったし・・・・・他の人も使うコップも割れちゃった」

 どうしよう。

「ルーク、頑張ったのに、パパのお使いできなかった・・・!」
「貴女はちゃんと私に手紙を届けてくれたでしょう? ならばそこでちゃんとお使いは達成しています、平気ですよ」
「でもっ! パパがっかりしちゃったらどうしよう・・・っ!? ルークなんて、もういらないって言われたらっ・・・・・!」

 ぽろぽろ。
 ぽろぽろ。

 アスランに辛く当たられることを考えてしまったのか、ルークの目からは止め処なく涙が零れ落ちた。
 ピオニーと別れる際にも泣かなかったルークが、この世界で一番の拠り所としている父親のアスランに捨てられることが、とても怖かったのだろう。
 ジェイドは呆然としながらも涙を流す少女に、困惑気に眉を顰めた。
 とりあえず慰めよう、と思いはするのだが子供の頃から悪魔の子やら死霊使いやらご大層な2つ名をつけられたジェイドにとって、子供がどうすれば泣き止むのかがわからない。
 大声を上げて泣かれるよりかマシだったが、何故かジェイドの目には泣き声がない方が痛々しく見えたのだ。

 とりあえず涙を拭おうと手を差し出そうとするが、その軍服の手袋が先ほどのアイスクリームで汚れているのが見えて、ルークにわからない程度に溜息を吐いた。
 それから両腕の手袋をはずし、そっと少女の涙を拭ってやる。
 拭っても拭っても溢れ出てくるものだから、ジェイドは汚れた小さな体を抱き上げてやる。
 ルークが半ば無意識にジェイドの首へと腕を回し、顔を肩へと擦り付けるのがわかった。
 これで涙は服の布地が勝手に拭ってくれるだろう。

 さて、それ以上どうするべきか。

 ジェイドの妹がまだ生まれて間もない頃、ぐずる妹を今はもう居ない両親はどうしていただろうか。
 抱き上げていたのはわかる。その他には? 抱き上げただけで泣き止んだ覚えはない。ならば何かあったはずだ。
 過去の記憶を掘り返して、必死で思い出そうとする。
 すると母と呼べる人が、妹を抱き上げ背中を撫でていたり、軽く叩いているのを思い出した。
 ジェイドにはそれがどんな意味があるのか良くわからなかったが、とりあえず実践してみる価値はある。(背中にへばりついている熊が邪魔だったが、仕方ない。)
 ぎこちない手つきでルークの背を軽く叩いて、撫でてやると少しだけルークの体から力が抜けた。
 それに安堵して、あれからどうなったのかと心配になって戻ってきたギャラリーに、ジェイドは1人の女性兵士に近づいた。

「すみませんが、」
「は、はい!?」
「この少女にあうような服を適当に見繕ってきて下さい。代金は後でお返しします」
「・・・・はい! 了解いたしました!」

 突然死霊使いと恐れられている男から声をかけられて、女性は酷く狼狽したが、可愛らしい白いワンピースがコーヒーや紅茶によって跡が残ってしまっているのを見て、力強く頷いた。
 そのまま駆け出していった女性兵士を見送って、ジェイドはその近くに居た男に声をかけた。

「貴方にもお願いします。一部始終は見ていましたね?」
「・・・はい!」
「では、アスラン・フリングス中佐に使いを。貴方のご息女が泣いています、至急来られたし、と」

 ジェイドの言葉に、息を呑んで事態を見守っていた兵士たちは、少女がアスランの娘であると初めて気づいたのだった。
 ジェイドから命を受けた男も例外ではなく、思わず少女を見つめてしまうが、すぐに不愉快そうな死霊使いの視線に気づいて慌てて敬礼した。

「了解いたしました!」
「急ぎなさい。」

 バタバタと慌てて男の姿も見えなくなってジェイドが振り返ると、そこにはマルクト軍基地本部の食堂の料理長である恰幅のいい女性が困ったような、それでいて怒っているような表情を浮かべていた。
 ただその目だけは面白そうに死霊使いと少女の姿を映していたが。

「・・・・すみませんが、テーブルとその周辺を片付けておいて貰えますか?」
「別にいいがね。アンタが壊してくれた窓や床のこげ跡は誰が修理してくれるんだい?」
「正確な修理費が出たら私までご報告をお願いします。後であの馬鹿の口座から、今回の修理費を差っ引きときますから。」
「いいだろう。・・・・おいっ、そこにぼさっと突っ立ってる兵士ども! 話は聞いていたね、今すぐあのテーブルと周辺を綺麗にしな! でないと1ヶ月はこの食堂での食事は抜きにするよ!?」

 料理長の一喝で場が慌しく動き始めた。
 1人者が多い軍人は、その仕事の都合上自分で炊事するものは少ない。
 彼らにとって、この食堂はなくてはならないものなのだ。
 1ヶ月も飯抜きにされてはかなわない、と兵士たちは驚異的なスピードで後片付けを終わらせた。
 ジェイドは彼らから汚れてしまった帽子と手袋、そして中身が読めないほど茶色くなった手紙を受け取り、再び同じ場所へと腰を落ち着けた。

 未だジェイドの肩に顔をうずくめるルークの背を撫でつつ、料理長が入れてくれたコーヒーを飲んでいると、再び廊下が騒がしくなってきた。

「・・・・・ルーク!!」

 自宅から軍本部まで走ってきたのだろう、少し息が乱れている。
 それでもとても心配そうなアスランの声に、ジェイドの腕の中でルークは怯えるようにそろそろと顔を上げた。

「あぁ、ルーク! 無事ですか!?」

 涙で赤くなってしまった部分を優しく触れ、アスランはそっと愛しい娘の瞼の上へと口付けを落とした。

「・・・・・パパ、ルークのこと、怒らないの・・・・?」
「何故?」
「どうしてって・・・・ルーク、お役に立てなかったよ? お服まで汚しちゃった・・・・」
「兵士さんに聞きましたよ。ルークは、私のお使いを全うしてくれたじゃないですか。ちゃんとお手紙をカーティス大尉に渡せたでしょう? 洋服は、いつか汚れてしまうものです。後でメイドたちに頼んで洗ってもらいましょうね? それでも落ちなかったら、また新しい洋服を一緒に買いに行きましょう」

 慈愛の微笑を浮かべ優しく言い聞かすアスランに、ルークはジェイドからアスランへと首に抱きついた。
 ルークをジェイドの腕から抱き上げ、アスランは今まで子守をしてくれていたジェイドへと微笑みかけた。

「カーティス大尉、今回はありがとうございました」
「いえ、元はと言えば私の方に原因があります。申し訳ありません」
「構いません。こちらにもメリットはありました」

 そう言ってアスランの肩でぐずるルークの髪に優しく口付けてあげて、彼はジェイドにしかわからぬようにそっと呟いた。
 「・・・・ようやく、泣いてくれた。」と。
 その意見にはジェイドも賛成だった。
 アスランが居れば、ルークは泣くことはなかっただろう。
 だが泣くことを知らぬまま世界を生きるのには、少し生きづらい。
 人は泣くことによって、感情の鬱積や鬱憤を紛らわす事だってあるのだ。
 ルークが泣くことは、やはりアスランに関係することであった。
 これからもっと心が成長していけばいいと、アスランは思っている。

「・・・大尉! 買ってまいりました!!」

 先ほど少女の服を買ってきてもらうよう頼んだ女性兵士も戻り、彼女は突然現れたアスラン・フリングス中佐に驚きつつも、周囲の同僚から彼が少女の父親であることを知ると納得したようだった。
 アスランが女性兵士にルークの着替えを頼むと、彼女も了承して奥の更衣室へと消えていった。

「しかし・・・ネイス博士にも困ったものですね、」
「その様子ですと、一通りは知っているようですね。」
「えぇ。申し訳なく思いましたが、使いの兵士に道すがら説明していただきました」
「後であの馬鹿にはお仕置きしておきます」
「大尉、『生かさず殺さず』、ですよ?」
「無論、承知の上ですよ中佐」

 穏やかに微笑みながら過激な発言をするアスランに、周囲の兵士たちが我が耳を疑ったり、普段は見られぬ中佐の一面に目を輝かせている者もいる。
 ジェイドがコーヒーを、アスランが紅茶を所望して一息ついていると、ようやく愛らしい娘が奥から女性と共に姿を現した。

 黒を基調としたリボンがふんだんに使われている、こちらも可愛らしいワンピースだった。
 汚れてしまった帽子の代わりか、小さな黒い帽子が少女の頭にちょこんと置かれており、少女の髪も黒のリボンで飾りつけられていた。
 背に抱えていた熊の人形を手に持ち、熊の首に巻いてあった白いリボンが黒いリボンと変わっており、まるでおそろいのようで尚愛らしい。

「・・・ルーク! また一段と可愛くなっていますよ」
「本当? 変じゃない??」
「えぇ、可愛いですよ。ね、大尉?」

 そこで死霊使いに話を振るか!? と周囲は瞬時に突っ込むが、当の死霊使い本人もどうして話をこっちにふる・・・? と少々不本意気味だった。
 それでも「似合っていますよ、ルーク」と褒め称えたのは、死霊使い本人も知らない内に成長したからか。(きっとルーク以外の人間であったなら、いつものように容赦なく皮肉気に笑うのだろうが。)

「中佐、こちらに前の服が入っております。」
「あぁ、ありがとうございます。これはその代金です」

 女性兵士から白い紙袋を受け取ると同時に、アスランは適当にお金を掴んでそれを女性に手渡した。
 そこには女性が買ってきた服のおよそ倍以上のお金がそこにあった。

「・・・こ、こんなに貰えません!!」
「あぁ、気にしなくていいですよ。勤務中に服屋に走ってもらった訳ですし、何よりルークの着替えまで頼んでしまいましたから。ちょっとしたお小遣いだと思って貰ってください」

 にっこりと穏やかに笑うアスランに女性もそれ以上強く出れず、戸惑いながらもアスランに礼を言って3人の側を離れていった。

「おや嬢ちゃん、また可愛らしくなっちまって!」
「あ、りょうりちょーさん! さっきはコップを割っちゃってごめんなさいっ」

 父親であるアスランの服を掴みながら頭を下げる少女に、料理長の女性は豪快に笑った。

「コップの1つや2つ、嬢ちゃんが割ったって痛くも痒くもないよ! はいよ、さっき零しちゃっただろ? アイスはないけど、紅茶で我慢してくれなっ」

 料理長の「どーせネイス博士がぜーんぶ出してくれるって言うんだし!」という心の声音は、ルーク以外の全員が聞き取っていたりする。
 少女にはそんな声は全然さっぱり聞こえないため、にっこり笑って料理長に礼を言った。
 その笑顔だけで、料理長や外野の兵士たちをどれだけ虜にしているか、やっぱりルークだけが知らなかったりする。

「熱いので、気をつけてくださいね。ルーク」
「うん!」

 子供には少し大きいカップをちょっとずつ傾けて飲む少女に、アスランもジェイドも自然に頬を緩めた。

「・・・そういえば、中佐。よろしければもう一度手紙を書いてもらっても宜しいでしょうか?」
「あぁ、そうでしたね。すっかり忘れていました。」
「正式な手紙ではなくメモなどでもいいですから、お願いします」

「ルークが書く!」

 一度はジェイドの手に渡り、その内容も確認したとはいえ、アスランが書いたという手紙をピオニーに渡すというのがジェイド(がピオニーから与えられた拒否権無し)の仕事だ。
 だから『諾。』とでも『了解。』とでも一言でいいから書け、というジェイドにアスランもあっさり同調したが・・・・ここでルークが手を上げた。

「ルークが最初の手紙を駄目にしちゃった・・・。だからピオ・・・じゃなくて殿下にはルークがごめんなさいって書く! パパ、ジェイドお兄さん、ダメかなぁ?」

 ジェイドやアスランだけの時はピオニーのことを名前で呼んでもいいよ、と言われているが、他の人がいる時は必ず殿下とお呼びするということも同時に教育されたので、ルークは慌てて言い直した。
 目下をまだ少し赤くさせながら一生懸命ジェイドにお願いするルークに、アスランも無言でジェイドへと目を細めた。
 あえて言葉にするならば、「可愛いルークの頼みが聞けない訳ないですよね、大尉殿★」と言った所か。
 どこが穏やかで紳士なフリングス中佐だ、噂などあまり当てにはならないな、とジェイドは再びアスランへの印象を改め、心中溜息を吐きながら首を縦に動かした。

「・・・手紙を持ってきます。少し待っててください」
「ありがとう! ジェイドお兄さん!!」

 嬉しそうな少女の笑顔と声音に、まぁいいかと思い始めてる時点で、ルークは着実に死霊使いと呼ばれている男を陥落しつつあった。



 その後。
 お世辞にも綺麗とは言いがたい簡単なフォニック文字の文章だけで届けられた手紙に、殊の外ピオニーは喜んだ。
 どうやらそこから伝わる一生懸命さに心打たれたらしい。
 ジェイドから事の詳細も同じく聞いたピオニーが、すぐさまルークに白いレースが可愛らしいミニドレスと、小さな可愛らしいティアラの小物つきでプレゼントした。
 遊ぼうと約束した日に、ピオニーが贈ったドレスとティアラを身に着けてきた時は、それはそれは彼自身「俺の目に狂いはなかった・・・!!」と絶賛し、時間が許す限りピオニーはルークを離そうとしなかった。
 勿論、その時のおやつにはさくさくのスコーンに美味しいジャム。
 そして全部食べられなかったアイスが並べられていた。
 名残惜しげに帰る直前、(誰かさんたちのお仕置きのおかげで)服や眼鏡がぼろぼろなサフィールがルークに謝り倒したのをきっかけに、2人が仲良くなったのをジェイドはあまり好んではいないようだった。(ピオニーは笑顔の下に何を思っているのか、アスランでさえも読み取れなくて良くわからなかったが。)


 アスランの新たな杞憂と言えば。
 ピオニーがルークを見つめている時に、時折その目に浮かべる『熱』。
 それはすぐに消えてしまうけれど。

「・・・・・・・・・・・・まさか、ね?」

 まさか。
 本気でルークを嫁にしようと思ってないでしょうね?

 アスランの杞憂が後に本物になることを、今はまだ気がついていなかった。


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