≪アスランの場合≫
彼の身体が強くない事など、保護した時から分かっていた事だ。
何せ保護した当初は高熱に魘されて、ベッドから起き上がれなかった日が何日も続いた事もあった。
だから急な襲撃に彼が歌うように発動した強力な譜術を確認した時、背筋がゾッとした。
案の定倒れかけるルルーさんを、イオン様とルーク様が支えていたが、非常に苦しそうだった。
すぐさま休むよう指示する前に、パリン、と嫌な音が周囲に響く。
「こんの、出来損ないがぁあああ!!!」
叫び声と共に結界内に侵入してきたのは、鮮血のアッシュだろう。
しかし・・・・赤い髪、緑の目とは・・・・ルルーさんと縁ある人間か、それともルーク様とか?
「出来損ないの屑が二人もいるだと・・・・?」
すぐさま尊い方々を守る為に前に出たが、共に戦闘態勢だったカーティス大佐がその言葉に目を見開き、表情を引き締めていた。
・・・・・・何か知っているようだな。
後で確認するとしよう。
だが今はこの侵入者をどうするか、だ。
「神託の盾騎士団が我が艦に何用です?」
「どけ。俺の邪魔をするな!」
「それはできません。貴方がたの目的は何です? 和平の妨害ですか、それとも・・・・」
ちらりと後方を窺えば、ルルーさんが胸を押さえていた。
・・・・これは早く対処した方が良さそうだ。
「ルルーさんとルーク様に何かご用でも?」
「貴様には関係ない!」
「関係ない訳ないでしょう。ルルーさんは、私の付き人。ルーク様に至ってはキムラスカ第三王位継承者でもあります。彼らに危害を加えるようならば、・・・・・この私が許しません!」
剣を抜き構える私に、だがアッシュは突如ハッと何かに気づいたようだった。
「屑が二人と思ったが・・・・年齢的に上だろうな。という事は人違いか? 王家特有色を持つ者がマルクトにいるのは解せないが、先祖返りか何かか。まあいい、どちらにせよあと一人は屑だという事には変わりない。」
アッシュもまたそう呟くと、剣を構えてきた。
お互い間合いをじりじりと詰めていく、とその時。
「―――――!!!!」
言葉無き悲鳴に、全員の意識がそちらを向いた。
「助けてお父様、お兄様、・・・・・ルシルフル!!」
その悲鳴に呼応するように、膨大な第七音素がルルーさんを渦巻き・・・・・いいや、ルーク様を中心として渦巻いている!!
『―――見ツケタ。』
それは不思議な声だった。
ルーク様の口が動いていたのだから、ルーク様の物であるはずなのに、違う何かの声のような響きを持っていた。
『アァ、譜歌ヲ歌ッテクレタオカゲデ、世界ガ特定デキタ。シカシ、俺ノ愛シイ兄上ヲ(弟ヲ)(子ヲ)傷ツケタ罪ハ重イ。』
ゆらりとルーク様がアッシュへと手を差し伸べた瞬間、私とカーディス大佐は飛ぶように後退した。
直後、膨大な第七音素は一気に収束し、音素の光によって金色にも見える目をルーク様が目を細めた。
『去ルガ良イ。』
言下、放たれる眩い光線が鮮血のアッシュを吹き飛ばしてくのが見えた。
「・・・・超振動ですか!」
カーティス大佐の唸るような言葉に、私もまた背に汗が流れた。
これが我々に向けられたら、即座に死んでいる事だろう。
いや、簡単に一国を滅ぼす力を持っていると言っても過言ではない。
大きな力を行使した後だというのに、悠然と立つルーク様に私は初めて彼に恐怖を覚えた。
『・・・・兄上、スグニ迎エニ行キマス。』
いつの間に気を失ってしまっていたルルーさんの髪を一房掬い、そこに口付けを落とすと、ルーク様ががくりと糸が切れたように座り込んでしまった。
「ルーク様!?」
「ルーク!?」
慌てて駆け寄り、イオン様も心配そうに声を掛けると、キョトンとした顔のルーク様がそこにいた。
「・・・・・・あれ? どうなってんだ?」
正直、それはこちらが聞きたい。
あの時の事を、ルルーさんもルーク様もよく覚えていないようだった。
あの後カーティス大佐とも話し合ったが、ルーク様はもしかしたらフォミクリーの技術で作られたレプリカかもしれない事。
その場合オリジナルは恐らく鮮血のアッシュではないかという事を聞いた。
その時点で頭が痛いというのに、あの時の『ルーク様』はたぶんルルーさんの弟だという『ルシルフル』ではないかと言う結論になった。
『彼』はあの時、ルルーさんを「俺の愛しい兄上」と確かに言った。
しかし同時に「世界を特定できた」という言葉が理解できない。
『彼』は、その『彼』の兄であるルルーさんは一体何なのか。
そう遠くない未来、彼らの元へ帰ってしまうのだろうルルーさんを思い、胸が痛んだ。
(迎えなど来なければいい。できる事なら、ずっとこのまま、側に・・・・。)
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